研究課題
本年度は台湾,タイ,日本国内で採集したニンギョウアナゴ亜科魚類の筋肉組織に加え,国内外から複数の筋肉組織を譲り受け,現在把握しうる最良の分子系統関係についての知見を得た.この知見を踏まえ,形態的な精査を行ったところ,ニンギョウアナゴ亜科の単系統性は遺伝的にも形態的にも支持されること,Myrophis属は複数の別の系統から構成される多系統であること,またインド・太平洋域の現在Myrophis microchirとされるものには少なくとも4種が含まれることが明らかとなった.従来では本亜科魚類は胸鰭のある祖先種から,ないものへと順を追って派生,進化したものと考えられていたが,今回得られた系統樹はこれを支持しないものであった.ニンギョウアナゴ亜科は尾鰭をもつことがその大きな特徴のひとつであり,同様に尾鰭をもつものの,別のウミヘビ亜科に含まれているヒレアナゴ属との関係がたびたび議論されてきた.今回の分子系統の結果からは,ヒレアナゴ属はもっとも祖先的なウミヘビ亜科のグループであるか,あるいはまた別の系統である可能性が示唆された.この点についてはさらに解像度を高めていく必要がある.形態学的な研究では既存のいずれの属にも帰属しない特異的な種が台湾から採集され,この種については新属新種としてすでに公表した.本亜科魚類としては比較的種多様性が高い一方,分類学的混乱の著しかったMuraenichthys属の形態を再定義した.これら一連の成果は台湾,アメリカの研究者と共同で企画した特集号で掲載された.
1: 当初の計画以上に進展している
27年度は現地担当者の都合上,当初予定していたパリ自然史博物館(フランス)での標本調査を達成することができなかったが,予算繰り越しを行ったうえで28年10月に達成でき,必要なタイプ標本の観察に成功した.遺伝子解析作業は筋肉サンプルを入手したほぼ全てのサンプルで成功したため,想定よりも早い段階で目的の系統樹を得ることができた.さらに,海外の研究者と共同で企画した国際誌の特集号出版によって,本研究課題に強く関連する複数の論文が公表された.このようなことから,当初の計画以上に進展したと判断した.
上記のとおり,今年度は本研究課題の核となる系統解析の部分を明らかにすることに成功したことから,次年度は今年度からすでに開始している形態学的アプローチに加え,生態的情報の収集に努める.さらに,複数のタイプ標本の観察を行って,分類学的措置を行うための命名決定を進めていく.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 6件、 謝辞記載あり 10件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件)
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