最終年度である平成29年度は、本課題遂行のために文献史資料調査と総括を行った。 年度前半の文献史資料調査において特に注目したのがライフデザインとモータリゼーションとのかかわりである。1975年から2017年までの沖縄県の自動車免許取得率や県内自動車台数などの各種統計資料をもとに、女性の移動手段に関する分析を行った。その結果、1980年代頃までは自動車免許取得率のジェンダー差は著しく、男性に比して女性の免許取得率が低かったものの、35年後の2015年にはジェンダー差が消え、特に50代以下の女性の免許取得率は9割にもおよぶことを明らかとした。その上で、これまでに筆者が行った現地実態調査の30代から50代女性の語りをデータベース化し、夫方新居居住を選択した女性たちは結婚や就職を契機に出身地から離れたところに住居を構えるものの、自分が自由になる自家用車を所有し、出身地と往来しながら生活を営んでいることの社会的背景として結びつけた。こうした女性の個を単位とする移動の在り方は、嫁が自らの役割として担っている家や出自集団を単位として行われている祖先祭祀にも影響をあたえており、これまで民俗学で指摘されてきた婚姻圏の拡大にともなう祭祀領域における役割の姉妹(娘)から妻(嫁)への移行は、モータリゼーションによって逆に妻(嫁)から姉妹(娘)に逆戻りする場合があることを指摘した。 年度後半はこれまでの調査結果の総括を行った。これまでの調査結果を踏まえたうえで、(1)日本社会における沖縄の「嫁」の特殊性、(2)沖縄における「嫁」の社会的ネットワークという2つの点から分析を行った。なお、研究成果の一部を明治大学島嶼文化研究所主催のフォーラム「国際社会の中の沖縄・奄美」において口頭発表を通じて公表した。
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