2005年に「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(医療観察法)が施行され、わが国の司法精神医療が本格的に開始された。医療観察法では通常の精神保健医療に加え、対象者が暴力等他害行動を起こさないよう援助することが求められる。医療法対象者ではその8割を統合失調症患者が占める。近年では統合失調症患者の示す神経心理学的障害(認知機能障害を含む)が機能的転機に関連することなどから、その重要性が認識されている。国外では神経心理学的障害と暴力との関連を示唆する報告もある。 61名の医療観察法対象者である統合失調症患者と、年齢、性別、学歴をマッチさせた54名の健常対照者に神経心理学的検査として8領域の認知機能が測定可能なCogState Battery(CSB)および情動に基づく意思決定課題であるIowa Gambling Task(IGT)を実施した。暴力のリスクの評価にはHistorical Clinical Risk Management-20 (HCR-20)とPsychopathy Checklist-Revised (PCL-R)を用いて評価し、神経心理学的検査の成績との関連を調べた。 医療観察法対象統合失調症患者群は対照健常群に比べCSBの全ての下位検査とIGTの成績の低下を示し、広範な神経心理学的障害を認めた。各群における偏相関分析では、IGTの成績の低下とサイコパシー高得点との関連が見られ、特に反社会的行動様式との関係が大きかった。医療観察法対象者群においては、CSB合成得点とストレスや治療的試みへの遵守性の欠如といった将来におけるリスク要因との関連が見られた。これらから神経心理学的障害は暴力のリスクを高める可能性がある。さらに、これらは異なるタイプの神経心理学的障害が異なる経路をたどり暴力のリスクに結びつく可能性を示唆するものである。
|