研究課題/領域番号 |
15J02855
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
河村 裕樹 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 精神医療と社会学 / 精神病患者と社会学 / 医療コミュニケーション / 医師-患者関係 / エスノメソドロジー / 会話分析 |
研究実績の概要 |
本研究は質的調査を用いて、精神病患者や精神疾患の社会学的理解を進めるためのものであるため、精神科病院や精神科クリニックに継続的に調査に入り、社会学的な観点から課題をいくつかに分節し、まずは2015年5月に日本保健医療社会学会で精神病患者が抱える困難をセルフスティグマという観点から捉える報告を行った。また6月には関東社会学会で、精神病患者が日常的な生活世界とかかわりを持つにあたってのコミュニケーションの方途としてパッシングを主題とした報告を行った。そして9月に日本社会学会において、摂食障害を患う患者の意味世界を社会学的に解釈した報告を行った。いずれの報告でも、日本における精神疾患や精神病患者に対する社会学的な関心と、それにも関わらず研究の蓄積の少なさという点もあり、多くの好意的な反応を受けた。とりわけ従来調査が困難とされていた医療機関で調査を行った点、および精神疾患を患う当事者に対して直接調査を行った点について高く評価された。 また分析枠組みとしてエスノメソドロジーや会話分析の知見を習得するために、セミナー等を受講し、理解を深めるほかに、他大学の教員や院生と研究会を新たに発足させ、定期的に研究会を開催した。このことは、調査レベルでの評価を、社会学的なレベルにおいても満たすために必要な作業であり、とりわけ今日的に医療社会学の分野で重要視されている枠組みを援用することで、最先端の知見を精神疾患の社会学に適用するものであるという点で、独創的な研究と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度は、当初の計画通り、日本保健医療社会学会、関東社会学会、日本社会学会の3つの学会でそれぞれ報告をすることができた点で、当初の計画は達成された。それ以外にも神戸EMCA研究会での報告、他大学の教員や院生と新たに研究会を組織し、月に一回のペースで研究会を催し、研究方法の研磨につとめるなど、人的交流の面では当初の計画以上の進展があった。 一方で学術雑誌への論文掲載はかなわなかった。しかしながら他方では、社会批評を旨とする同人雑誌に、調査方法論に関する論文を2つ掲載したように、研究結果を広く公開するという原則は堅持できた。 また本研究を進めるうえで根幹となる調査についても、初期の関係性作りから具体的な調査の開始へと段階を進めることができた。その結果として2015年末よりインタビューを開始した。また既にインタビュー調査を開始している調査現場においては、新たに医師と患者の協力の下、診察場面を録音させて頂き、それを会話分析の手法を用いて分析することを開始した。そしてその暫定的な結果を、研究会のデータセッションで報告し、分析を深めるとともに、早期に学術学会の大会で報告することを目指している。 以上のように、査読論文の掲載という点以外では、研究は順調に進んでいると見なした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方策としては、まずは調査協力者に対するインタビュー調査を進めることが一番の課題となる。これまでの研究計画では、患者のみを対象とする予定であったが、病院内でのフィールドワークを通して、職員の存在が重要な意味をもつことを見出した。そのため職員に対するインタビューも行う予定である。 また診察場面の録音という、倫理的にも、また医療行為の最中で行われるという点で調査協力者に対して負担を強いる調査に関しては、調査協力者と密に調整を図り、細心の注意をもって引き続きデータ収集を行う予定である。 研究の発表と言う観点では、2016年5月に日本保健医療社会学会での報告が決まっており、同年9月に、日本オーラルヒストリー学会で、10月に日本社会学会で報告を行う予定である。これらは研究成果を広く公にし、様々な意見をもらうことで、研究を更に深めるために大変意義のある作業だと考えている。 また『保健医療社会学論集』および『ソシオロジ』に論文を投稿する予定である。いずれも草稿を研究会で検討し、入念な準備を行う予定でいる。 さらに、様々な研究会で報告を行うことで、研究に磨きをかけていく。このように研究結果を公にすること、そしてそのために様々な機会を活用して意見を求めるという、双方向型の研究スタイルを目指す。
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