英国の女性写真家ジョー・スペンスについての研究発表においては、彼女が影響を受けたフェミニズム運動・理論が彼女のドキュメンタリー実践に与えた影響と、それによって可能になったドキュメンタリー形式の変革を論じた。当初、社会リアリズム的手法で撮影していたスペンスは、そのような方法では撮影者と被写体との間に存在する階層性を崩すことができないことに気がつき、撮影者である自分自身にカメラを向けるようになった。また、ガンを患った後でもその治療の過程を撮影し作品化するなどの活動を行い、医療の現場や日々の生活の中で抑圧される場に置かれる女性たちの問題を、みずからを通して表象しようとした。彼女は、彼女自身が作ったイメージが、他の女性たちに眺められることによって、彼女たちの抑圧された怒りの表出につながることを期待していた。このようにして彼女は、集団で批判的意識を高めあうコンシャスネス・レイジングやエンパワメントの道具としての写真をドキュメンタリーの変革と結びつけようとしたことを明らかにした。 2017年3月にはアメリカ合衆国ロサンゼルスのゲティ研究所を訪問し、2000年代以後のアラン・セクーラの作品分析のために、セクーラのアーカイヴ調査をおこなった。2000年代以後の彼の作品は、Fish Story (1995)で開始された海とグローバル経済に関する批判的な理解をもとに、環境問題や戦争の問題をも射程に含んでおり、これらの主題の分析は1970年代から彼が開始したドキュメンタリー形式の刷新とともに考えられねばならない。本アーカイヴ調査では、The Black Seaなどの創作時にセクーラが残していた創作ノートを閲覧し、セクーラが環境問題と戦争、また資本主義の間に密接なつながりを見ていたことを確認した。
|