本年度は、貴州省・湖南省にて調査を実施した。貴州省では、初年度より進めてきた占書『礼緯含文嘉』研究の一環として、最近発表されたキョウ(龍/共)麗坤「古鏡記:敦煌占候類文書中的“鏡”類文獻」(『敦煌写本研究年報』11、2017)で指摘のあった未見の貴州省図書館本を調査した。その結果、当該の伝本が民国期に抄写されたものではあるものの、これまで見つかっている二抄本とは異なる系統の抄本であることが確認できた。また全体の対校により、三抄本間の関係性も見えてきた。 湖南省では、湖南図書館や湖南師範大学などで調査を実施したほか、岳麓書院にて、昨年度刊行した『復元白沢図:古代中国の妖怪と辟邪文化』を下敷きとした学術講演も行った。その中で、新たに入手した一枚刷りの〈白沢の図〉二種(人面牛身・虎面龍身各一枚)を紹介し、江戸時代には日本独自の人面牛身の白沢のほかに、中国風の虎面龍身の白沢も流布しており、屋代弘賢ら一部の文人たちから注目されていたことなど、文化受容の実態も明らかにした。 また、本年度は、陳于柱『敦煌吐魯番出土発病書整理研究』(科学出版、2016)を受け、近世の占病文献についても研究を進めた。特に『張天師法病書』などの清末に流布した占病文献を蒐集・整理し、その成果の一部を発表した。占病文献と天文五行占の関係については、例えば明末の日用類書「法病門」には、病占が怪異占と一括して載録されており、呪符などが兼用された形跡も見える。両者の背景には、共通する鬼神観・怪異観も窺え本研究においても重要な資料であることが分かってきた。 そのほか、昨年度にパリ調査で見つけた越南本『天元玉暦祥異賦』についても新たな分析を加え論文を発表した。本書は、勅撰系の天文五行占書としては珍しく、日本や朝鮮に早くから伝播しており、新たに見つかった越南本の存在は、天文五行占書の東アジア的展開を考える上で重要な材料となった。
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