研究課題/領域番号 |
15J02898
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
吉田 剛 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 悪性黒色腫 / 末端黒子型悪性黒色腫 / がん幹細胞 / ニッチ / 汗腺分泌部 / 移植実験 / RAS-MAPキナーゼシグナル / フェロトーシス |
研究実績の概要 |
申請者は2016年度の研究において、毛包の存在しない掌蹠(足底、手掌)の汗腺分泌部に存在する色素幹細胞の創傷治癒プロセスにおける増殖能や分布動態の変化、および、悪性黒色腫モデル遺伝子改変マウスの足底(footpad)を免疫不全マウスに移植した際に形成される腫瘍病変について解析を行った。創傷部位の皮膚組織が再上皮化する過程において、GFP陽性細胞がどのような挙動を呈するのか検証を行ったところ、表皮のerosionが顕著である一方で、真皮に存在する汗腺分泌部においてGFP陽性細胞の増生や導管への移行は予想に反して確認されなかった。さらに、末端黒子型悪性黒色腫を発症する前に腫瘍死してしまう従来のがんモデルマウスの足底部を採取し、免疫不全マウスの背部に移植した結果、1か月以内に全てのレシピエントの背部において病理組織学的にヒトの悪性黒色腫に酷似した腫瘍が形成された。汗腺の導管に由来すると考えられる構造の顕著な伸長はヒトの病理像とは乖離しているが、間葉系の腫瘍細胞が胞巣状かつ渦巻き状に増殖している点は酷似していた。 また、新規細胞死であるフェロトーシスの分子機序の解明は、恒常的にRAS-MAPキナーゼが活性化している悪性黒色腫の治療標的として期待できる研究課題である。先行研究で報告されているフェロトーシス誘導剤(エラスチン、アーテスネイト)がxCTノックアウトMEFやHRAS(G12V)-MEFで特異的に細胞死を誘導するわけではないことが確認された。また、鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンが選択的オートファジーによって分解されることがフェロトーシスに関与しているという報告もあるが、フェロトーシスを起こした細胞だけに特異的なp62/SQSTM1の減少やLC-3 conversionは認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
既にわれわれは、未分化な色素細胞が汗腺分泌部というニッチ(至適微小環境)に存在しており悪性黒色腫形成における起源細胞となりうることを報告している(Pigment Cell Melanoma Res.2014;27:1039-50.)。一方で、創傷治癒は悪性黒色腫の浸潤・転移能を高めることが臨床医学的にも以前から指摘されている(Cancer Res.1991;51:4853-8, Exp Dermatol.2012;21:437-42.)。今回、申請者は掌蹠の創傷治癒過程における正常色素幹細胞の増殖能、動態について検証をすることができた。また、これまで数多くの種類の悪性黒色腫モデル遺伝子改変マウスが開発されてきたが、足底部に腫瘍病変が形成される前に既に体幹に発生した腫瘤によって腫瘍死してしまう。そこでドナーとなる7週齢のTyrCreERT2;BRAF(V600E);PTENにタモキシフェンを投与し3週間後に足底部を採取し、免疫不全マウスの背部に移植した結果、1か月以内に全てのレシピエントの背部において腫瘍が形成することを確認し病理組織学的に解析することに成功した。掌蹠部のみに特異的に悪性黒色腫を発生する新規メラノーマモデルマウス樹立については、新たに着目しているRAS-MAPキナーゼ抑制作用を示すSPRED1をノックアウトしたマウスを従来の悪性黒色腫モデルマウスと交配することで樹立を試みている最中である。 また、新規細胞死として着目されているフェロトーシスに関して、シスチン輸送体xCTおよびがん遺伝子HRAS(G12V)との関連性について、ノックアウトマウス由来の線維芽細胞を樹立したり野生型MEFにがん遺伝子を過剰発現させることで検証を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
創傷治癒過程において正常な色素幹細胞の増殖能や遊走能の獲得は認められなかったが、未分化な色素幹細胞に由来する癌幹細胞が創傷治癒の過程において活性化されて腫瘍組織形成に寄与することを確認するためには、今後、悪性黒色腫モデル遺伝子改変マウスの足底部において創傷治癒実験を繰り返す必要がある。但し、後述するように体幹部に発生する腫瘤によって腫瘍死を遂げるため、掌蹠部特異的に悪性転化を誘導するシステムを構築する必要があると考えられる。
また、移植実験で形成される掌蹠部由来の悪性黒色腫を病理組織学的に解析すると、汗腺分泌部に存在する色素幹細胞のみから腫瘍形成されるという仮説に反して、真皮に分布していたメラノサイトが異常に増殖した可能性も考えられる。汗腺分泌部の基底膜が破綻して悪性転化した悪性黒色腫の起源細胞が真皮を中心に増生するパターンを示唆する今回の実験結果は、導管を介して表皮直下で異型メラノサイトが増生するヒトの末端黒子型悪性黒色腫モデルとは相異なるものであり注目に値する。今後、悪性黒色腫の病理組織学的な特徴を如何に反映しているのかという観点から、よりヒトに実際に発症する腫瘍モデルに近づけていきたいと考えている。
フェロトーシスの分子機序の解明は、恒常的にRAS-MAPキナーゼが活性化している悪性黒色腫の治療標的として期待できる。先行研究で報告されているフェロトーシス誘導剤がxCTノックアウトMEFなどで特異的に細胞死を誘導しなかった。また、鉄貯蔵タンパク質フェリチンが選択的オートファジーによって分解されるという報告もあるが、フェロトーシスを起こした細胞だけに特異的なp62の減少やLC-3 conversionは認められなかった。こうした実験結果から、化合物ライブラリーを用いてRAS-MAPキナーゼが常に活性化している細胞でのみ特異的に細胞死を誘導するケミカルを探索中である。
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