研究課題/領域番号 |
15J02911
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩澤 裕介 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 骨髄異形成症候群 / RNAスプライシング |
研究実績の概要 |
1. MDS患者検体のRNA-seq解析によるスプライシング異常のパターンと規定因子の解析:イタリアPavia大学分子医学講座からご提供いただいたMDS患者336例の骨髄細胞のうち、214例から高品質なRNAが得られ、RNA-seqを行った。その結果、SF3B1変異例では3’スプライス部位の異常が、SRSF2変異例ではエクソンがスキップされるなどのエクソン単位の異常が特徴的に見られることが判明した。SF3B1変異例でスプライシング異常が見られる遺伝子のうち、ヘム合成に関連した遺伝子としてABCB7とTMEM14Cが同定された。また、SRSF2の変異体では認識するRNAの塩基配列が変化していることが明らかになった。 2. SF3B1変異例の骨髄CD34陽性細胞の赤芽球系への分化誘導とRNA-seq解析:骨髄CD34陽性細胞をin vitroで赤芽球系に分化させ、RNA-seqを行った。SF3B1変異例で同定されたスプラインシング異常は赤芽球系の細胞でも再現された。このことから、ヘム合成に関わるABCB7とTMEM14Cの異常が、SF3B1変異による貧血の原因になっている可能性が考えられた。 3. 培養細胞での異常スプライシング産物の機能解析:SF3B1遺伝子の発現ベクターを培養細胞にトランスフェクションすると、スプライシング異常が再現された。これにより、SF3B1変異例で見られるスプライシング異常は副次的なものではなく、変異自体が原因であることが示された。 4. RNAスプライシング変異ノックインマウスのスプライシング異常と造血機能の解析:SRSF2変異のコンディショナルノックインマウスを作成し、造血機能の表現型解析を行った。成熟血球の減少、幹細胞・前駆細胞分画の増幅、自己複製能の低下が見られた。また、骨髄細胞よりRNA抽出をし、RNA-seqを行った。マウスでのスプライシング異常について、現在解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画のうち、骨髄異形成症候群の大規模コホートの遺伝学的解析は完了しており、RNAスプライシング変異、特にSF3B1変異の病態について新規性の高い知見を得ることができた。論文作成もほぼ終えており、近日中に投稿の予定である。 異常スプライシング産物の機能解析についても、SF3B1遺伝子の発現ベクターの作成を終え、実験をさらに進める準備が整っている。 マウスモデルについては他の研究者と共同して研究を進めており、SRSF2変異モデルマウスについて造血系の機能解析を終えた。これは研究計画の2年目に行う予定であったが、それを上回る進捗状況である。現在はスプライシング異常についての解析を進めており、こちらについても本年度中の論文投稿が見込まれる。 以上の成果について、米国血液学会で口述発表を行ない、Abstract Achievement Awardを受賞した。その他、国内・海外の双方で多くの学会発表を行なった。これらの業績により、本年度の米国血液学会の学術集会における査読委員に推挙されており、研究成果の証左と言える。本年度はこれらの成果について論文をまとめる方針である。
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今後の研究の推進方策 |
骨髄異形成症候群の大規模コホートの遺伝学的解析については論文を作成しており、近日中に投稿する予定としている。 異常スプライシング産物の機能解析については、SF3B1遺伝子の発現ベクターを作成して実験を進めているが、SF3B1タンパクの内因性発現量が非常に多いため、強制発現による変異体SF3B1タンパクの発現量が相対的に少ないことが問題となっている。これを解決するため、CRISPR/Cas9による変異株の作成を検討している。 SRSF2変異モデルマウスについてはスプライシング異常についての解析を進めており、こちらについても本年度中の論文投稿が見込まれる。 また、これらの成果については本年度の日本癌学会、日本血液学会、米国血液学会で発表する予定としている。
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