研究課題/領域番号 |
15J02917
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
飯尾 真貴子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 強制送還レジーム / トランスナショナル視角 / 越境的な統治メカニズム / デポータビリティ / アメリカ合衆国 / メキシコ合衆国 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近年の世界的な移民の社会的排除を背景とした移民規制政策の厳格化が国内と国際移住の多段階的な移住回路を結ぶトランスナショナルな社会空間に及ぼす影響を、移民の社会関係資本のあり方に着目して明らかにすることである。2015年度前半では、特に2014年9月~2015年3月までに行った村落部を中心とするフィールド調査に関するデータ分析を行った。また、先行研究の精査を通じて、帰国を移民の帰国後の社会における再適応という個人の経験として捉える視点から、米国の経済政治構造を背景とした集団的経験として捉える視点への転換の重要性を認識するに至った。 以上を踏まえた上で、送出し地域を射程にいれたトランスナショナルな社会空間において、強制送還レジームが特に村落出身者にとってどのような帰国を生み出しているのか、そして彼らが出身村への帰還をどのように経験しているのか検討することによって、フーコーの統治性の議論を基盤とした「越境的な統治メカニズム」という概念を新たに提示し、米国政府が編み出した偏在的な移民規制の権力構造が国境を越えて、メキシコの村落部においても影響力を持って機能している様を明らかにした。 2015年度の研究実施計画では、2015年7月~9月にメキシコと米国で現地調査を実施する予定であったがやむを得ない事情で実現できなかった。しかし、前述した調査結果を新たな視点から分析することによって明らかになった発見点を日本社会学会とイベリア・ラテンアメリカ文化研究会 (SECILA)において口頭発表することができた。 特に、口頭発表の参加者よりフィールド調査を基盤とした分析結果を評価して頂くだけでなく、様々な質問やコメントを得ることができたことは、今後の研究の方向性を考える上でも意義深く、分析枠組みについての考察を更に深める重要な機会となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2015年度は前半にこれまでの調査に関するデータ分析を行い、中盤から後半にかけてメキシコと米国で現地調査を行う予定であったが、体調不良により現地調査を断念せざるを得ず、論文執筆も当初計画していた通りに進展させることができなかった。研究目的を達成できるよう2016年度以降の計画を見直し、調整を図る。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、米国の移民規制政策の厳格化が村落部、都市部、そして米国受入れ地域における多段階的な移住回路を結ぶトランスナショナルな社会空間に及ぼす影響を移民の社会関係資本に着目して明らかにすることを目的とし、村落、都市および米国での調査を予定していた。しかし、研究を進めるうちに研究当初に想定していた米国強制送還政策に対抗するようなエスニックアイデンティティを基盤とする社会関係資本が存在するのではなく、逆に米国における被強制送還者を犯罪者とみなす言説が広く受容され強制送還による帰国者へのスティグマ化が進行していることが確認できた。以上を踏まえ、帰国を移民の社会関係資本に着目し帰国後の社会における再適応という個人の経験として捉える視点から、米国の経済政治構造を背景とした集団的経験として捉える視点への転換の重要性を認識するに至ったことから、より村落部での調査に重きをおきながら、米国での調査を補足的に実施する方が研究課題を明らかにするのにより有効であると判断した。今後もこの方針で研究を推進していく予定である。 2016年10月以降より研究に復帰し、本来予定していた現地調査、口頭発表及び論文執筆などを進めることによって、現在の研究の遅れを取り戻すことができると考える。
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