ステロイド骨格を有する化合物は自然界に数多く存在し、さまざまな生理活性を示すことが知られている。生化学研究に必要な希少ステロイドの供給が望まれているが、容易に入手可能なステロイドの部位選択的化学修飾は非常に困難であり、既報のステロイド合成法よりも効率的な手法の開発が求められている。そこで、容易に調製可能なセグメントを順次連結して必要な官能基を調えた環化前駆体を合成し、ドミノ環化でステロイド類の多環式骨格を一挙構築しようと考えた。本研究では、副腎皮質ホルモンとして知られるアルドステロンの合成を鍵とし、新規ステロイド骨格合成法の開発を検討した。さらに、得られた知見を活用して抗炎症・抗がん剤として知られるデキサメタゾン類縁体を調製し、これらの構造活性相関研究を行い、より高活性で副作用のない新規ステロイドの創製を目指した。 アルドステロンは、別途調製した三つのセグメントを連結した環化前駆体のドミノ環化で四環性骨格を一挙に構築した後、官能基変換で合成できると考えた。不斉合成に先立ち、ラセミ体で合成を検討した。グリシドール由来のエポキシドを出発原料とし、位置選択的ヒドロアルミニウム化および薗頭カップリングを経由する11段階で側鎖にアルキンを導入した。続いて、別途調製したセグメントを順次連結して4段階で環化前駆体を合成した。この環化前駆体に対し、エタノール中、酢酸マンガン(III)と酢酸銅(II)を用いるラジカルドミノ環化を行ったところ、望む四環性化合物は得られず、環化が途中で停止した三環性化合物が生成した。一方、ヨウ素化およびアルキル化を経由して酸素官能基を導入した環化前駆体を別途調製し、同様の環化条件に付したところ、低収率ながらABC環部がtrans縮環、CD環部がcis縮環した四環性化合物の合成に成功した。
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