強レーザー場中における原子・分子の多電子ダイナミクスとして、トンネルイオン化とそれに引き続いて起こる高次高調波発生の関係とその制御に関する理論的研究を行った。高次高調波発生は、トンネルイオン化により飛び出した電子がレーザー電場の反転に伴って約半周期後に親イオンと再結合することにより軟X線など入射波の高次の光を発生する現象である。これまでは、実験的なレーザー電場の半周期の情報の抽出や多電子系の理論計算の難しさのために、異核二原子分子の多電子ダイナミクスに関して明確な描像が得られていないのが現状であった。そこで、LiHとCO分子を対象に多配置時間依存Hartee-Fock法を用いて多電子ダイナミクスを数値的に求めた。 解析には1次の縮約電子密度行列を対角化する分子軌道、つまり、自然軌道を用いた。自然軌道を用いると一体の物理量を各自然軌道からの寄与の和として表現することができ、多電子ダイナミクスの一体的な理解が可能となる。本研究では、自然軌道の一電子有効ポテンシャルの開発を行いトンネルイオン化や高次高調波発生の機構を詳細に調べた。本研究で開発した自然軌道の一電子有効ポテンシャルを求めることは、時間依存密度汎関数法における汎関数を第一原理的に求めることへもつながる重要な試みである。 有効ポテンシャルを用いた解析から、LiHのHOMOでは、H原子核側のポテンシャル井戸が高くなったときにH付近に局在した電子がLi側へイオン化しやすいという描像が得られた。一方、COのHOMOでは、C側の井戸が低くなったときにC付近に局在した電子がC側へイオン化しやすいことが示された。以上より、分子によって異なるイオン化の異方性の機構が明らかとなった。この結果は、入射波の包絡線に対する搬送波位相を変化させることにより、トンネルイオン化や高次高調波発生への軌道ごとの寄与を制御できることも示唆している。
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