研究課題/領域番号 |
15J02962
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
馬渕 隆 東北大学, 環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | CZTS / 多元系硫化物 / 水溶液中合成 / 太陽電池材料 / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
本研究では、高効率、低コストな次世代太陽電池材料として注目を集めるCu2ZnSnS4(CZTS)を安全・安価な溶媒である水溶液中で合成する手法、及び合成した粒子を用いて塗るだけでCZTS太陽電池を作製する技術を開発することを研究目標としている。本目標の達成には、各金属イオンの水溶液中での硫化反応挙動の解析、及び複数種金属イオンの水溶液中での硫化反応速度制御技術の開発が必要である。 1.Sn2+の硫化挙動の解析 各金属イオンのうち、これまでに水溶液中での硫化物粒子合成手法が確立されていないSn2+イオンについて、硫化反応挙動の解析、最適な反応条件の探索を行った。その結果、スズ硫化物は高pH条件下で水溶液中へ溶出すること、及び硫化物イオン源として硫化反応速度の速い硫化ナトリウム水溶液を用いた場合には、斜方晶及び立方晶の混合相として析出することが明らかとなった。そこで、より低pHで安定であり、硫化反応速度がより遅いチオ硫酸ナトリウム水溶液を用いることで、斜方晶単相のSnS粒子を合成することに成功した。 2.Cu2+、Sn2+の硫化反応速度制御、及び複合硫化物合成 Cu2+、Sn2+について各種錯化剤の配位状態の計算予測、硫化反応時のギブス自由エネルギー変化の値の算出を行い、硫化反応速度が同等となると予測された条件の下で実際に粒子合成を行った。その結果、Cu及びSnを狙い通りの原子数比で含む複合硫化物ナノ粒子の合成に成功した。合成粒子の粒径は10nm以下であり、XRDパターンはCu2SnS3(CTS)とよく一致した。一方で、粒径の低減に伴う表面エネルギーの増大から表面が容易に酸化されることが明らかとなり、今後は表面酸化抑制技術の開発が必要であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請時においては、本年度は、1. 各金属イオンの錯体状態の計算予測と硫化反応速度の制御、2. CZTSナノ粒子の水溶液中合成法の開発、を計画していた。しかしながら、研究を遂行していく中で、Sn2+の硫化沈殿反応に当初の予想と異なる挙動(研究概要参照)が確認された。本課題は現在までに解明され、単相硫化スズ粒子の合成に成功している。また、各金属イオンの錯体状態の計算予測と硫化反応速度の制御を行い、Cu2SnS3(CTS)ナノ粒子の合成に成功しており、本研究の中核となる金属錯体制御による複合硫化物合成という戦略は有効であることが確認された。しかしながら、当初計画していたCZTSの合成には至っておらず、僅かではあるが進捗に遅れが生じていると考えている。一方で、当初は予定していなかったスズ硫化物の水溶液中合成について、これまでにない知見を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
Cu及びSnについて、硫化反応速度制御により複合硫化物ナノ粒子を合成することに成功したことから、金属錯体種制御による硫化反応速度の統一化は水溶液中での複合硫化物合成において有効な手段であると考えられる。従って、今後はZnについても同様に錯体種制御を行い、上記条件に添加することでCZTSナノ粒子の合成を目指す。また、表面保護剤の添加等により、合成ナノ粒子の酸化を防ぐ手法を探索する。合成ナノ粒子は、基板へ塗布・焼成し、太陽電池化することで太陽電池性能の評価を行う。
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