研究課題
申請者は,植物の傷害応答に深く関わる植物ホルモンである,ジャスモン酸イソロイシン(JA-Ile)の輸送体JATを見出し,その生理学的意義の解明を目的として研究を行ってきた.そこではじめに,JATによるJA-Ileの輸送が実際の植物個体で生じているかを確かめた.傷害葉に重水素標識化JA-Ileを投与し,非傷害葉への化合物の移行量を測定した.その結果, jat変異株では,野生株と比べて移行量が減少していた.このことからJATは,傷害時に,JA-Ileの移行を制御することが示された.また,傷害を与えた際のJATの発現部位を調べると,傷害葉の葉脈とその周辺に発現していることを明らかにした.このことから,JATは,維管束系を介してJA-Ileの移行を制御することが示唆された.また,JATはJA-Ileだけでなく,植物ホルモンの1種であるジベレリン酸も輸送することが確かめられている.両者は構造的に全く異なっており,JATの基質認識メカニズムに興味が持たれた.申請者は,アフリカツメガエル卵母細胞を用いた系を用いて,より詳細な輸送活性の評価を行った.JA-Ileおよびジベレリン酸の構造類縁体のバリエーションを増やし,それぞれの基質に対するJATの輸送活性を評価した結果, JATはどの構造類縁体も輸送しなかった.このことから,JATは基質構造を非常に厳密に認識する事が示唆された.さらに,JATと各種基質のX線共結晶構造を得るために,昆虫細胞での発現系を検討した.これまでに,昆虫細胞において,緑色蛍光タンパク質融合JATの発現を確認している.
1: 当初の計画以上に進展している
重水素標識化ジャスモン酸イソロイシンを用いた,植物体における輸送活性評価により,JATは植物個体においてでもJA-Ileを輸送することが確かめられた.この結果は,JATを介したJA-Ileの移行が,傷害時に生じていることを示唆する,また,申請者は,アフリカツメガエル卵母細胞の異種発現系を用いたJATの輸送活性評価により,様々な構造類縁体に対するJATの輸送活性評価を行った.さらにSf9昆虫細胞を用いたJATタンパク質の発現検討も同時並行で行い,JATの基質認識機構解明に向けて確実に前進している.
まず実際の植物体を用いた実験をより詳細におこなう.傷害時における,傷害応答関連遺伝子の部位別測定や,代謝物測定をより詳細に検討し,JATの生理学的意義を見極める.この際,植物体の生育に時間がかかるため,より幼齢期の植物体を用いることも検討する.また,JATと各種基質のX線共結晶構造の作成に向け,JATタンパク質の精製および結晶化の条件検討を進めていく.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Nature Commun.
巻: 6
doi: 10.1038/ncomms7095
Plant Mol. Biol.
巻: 88 ページ: 165-176
10.1007/s11103-015-0315-0
http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20150205-3343.html