現在、火力発電用ガスタービン翼材にはNi基超合金が広く用いられている。本研究は低炭素社会実現に向けて、Ni基超合金を凌駕する新しい超高温耐熱材料として提案されているMoSi2基合金の実用化を目指している。 昨年度までの研究で、ラビリンス組織を形成するMoSi2/Mo5Si3合金が有する凝固方向から約15°傾いた組織は、相界面においてレッジが形成されることに由来しており、弾性ひずみエネルギーと界面エネルギーの両方の因子が大きく寄与することを示した。 これまでの研究では組織形状に注目し、C11b相からD8m相が析出する反応を仮定していた。しかしながら実際には、共晶反応によりラビリンス組織は形成されており、共晶点である2173Kよりも高温の液相領域から冷却を経て、2相組織が形成される。本研究では相を表す秩序変数が0でC11b相、1でD8m相と定義しているが、今年度の研究では、凝固プロセスを計算に反映させるために、温度依存性のエネルギーペナルティを与え、共晶点温度以上においては秩序変数が0.5が安定、すなわち溶融状態となるようなシミュレーションモデルを作成した。冷却速度(dT/dt[K/s])、温度勾配(G[K/m])、固液界面移動速度(R[m/s])の間には、GR=(dT/dt)の関係があるため、冷却速度を一定として、温度勾配および界面移動速度を変化させた。また、共晶反応は溶質移動律速のため、相変態に起因する界面易動度は十分大きくしている。 シミュレーション結果より、実験で見られているようなD8m相が凝固方向に対して約15°傾いて伸長した微細な組織が得られた。一般的には、組織形状は界面エネルギーと弾性ひずみエネルギーのバランスによって決まるが、凝固プロセスを考慮することで組織形状だけではなく、微細な組織や、温度勾配により組織が伸長していく成長過程を再現することができた。
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