農業害虫のハダニとその捕食者のカブリダニの攻防は、両者が分散できない閉鎖環境で観察されてきた。ハダニの防御網に侵入して捕食するカブリダニは、閉鎖環境ではハダニを必ず皆殺しにするが、ハダニが餌場から分散できる環境では多くのハダニを取り逃がす(昨年度までの成果)。ハダニは1匹からでも大きな個体群を作る増殖力を持つため、カブリダニが餌場から取り逃がすハダニの割合は、ハダニに対する生物的防除の成否を大きく左右する。本年度は、カブリダニがハダニを分散させる割合が①カブリダニの採餌履歴と②カブリダニの種によって異なることを明らかにした。 ①ケナガカブリダニの雌成虫(ケナガ)は、ハダニの発育段階のうち卵を好んで捕食するが、その理由はハダニの卵の栄養価が高いからと考えられてきた。本年度の実験の結果、現在または過去にハダニの卵を食べたケナガは、他の発育段階のハダニを食べたケナガと比べて、ハダニを餌場から分散させにくいことを発見した。ハダニの卵を食べた(ハダニを逃がしにくい)ケナガは、ハダニを餌場に長く留めて効率よく搾取できるので、ケナガがハダニの卵を好む大きな理由になると考察した。 ②生物農薬として販売されるチリカブリダニ、土着天敵であり生物農薬でもあるミヤコカブリダニ、土着天敵のケナガカブリダニを比べると「チリ、ミヤコ、ケナガ」の順にハダニを餌場から逃がしにくく、カブリダニの卵についても「チリ、ミヤコ、ケナガ」の順にハダニに気付かれにくいことを発見した。気付かれやすいケナガの卵を洗浄するとチリの卵と同等に気付かれにくくなることから、気付かれやすさはカブリダニの卵表面を覆う物質に裏付けられることが示された。以上の「ハダニに対するステルス性」をカブリダニによるハダニ制御力の新指標として提案したところ(国内学会発表2)、ハダニの生物的防除に携わる現場の研究者から大きな関心を寄せられた。
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