研究課題
乳癌の増殖はERαとHER2に強く依存しており、乳癌患者の約90%はERα及びHER2のいずれかを発現している。また、我々の研究室より、乳癌患者においてYB-1がHER2やERα発現と相関していることを報告している。しかし、YB-1によるERα及びHER2発現制御メカニズムは明らかとなっていない。YB-1によるERα及びHER2の発現制御メカニズムを解明することは、乳癌の適切な治療薬の選択を行う上で極めて重要と考え本研究を進めた。本年度では以下の点について明らかとした。[1]ERα陽性乳癌細胞で、核内YB-1発現誘導はHER2発現を亢進させ、ERα発現を低下させた。[2]ERαの活性がHER2発現に関与するか否かを検討するため、ERαのagonistであるエストラジオール(E2)によるHER2発現への効果を検討した。E2はHER2タンパク及びmRNA発現量を減少させた。さらに、ERα標的薬(tamoxifen、fulvestrant)はHER2タンパク及びmRNA発現量を上昇させた。[3]YB-1がERαによるHER2発現制御に関与するか否かを明らかにするため、クロマチン免疫沈降法により検討した。その結果、ERα陽性乳癌細胞でE2はYB-1のHER2プロモーター領域への結合を減少させた。[4]共免疫沈降法による検討から、細胞内でYB-1とERαの結合が観察された。さらに、E2はYB-1とERαの結合を増加させた。このことより、YB-1は活性化型のERαへの結合能が大きいと考えられる。そのため、ERαはYB-1と直接結合することでYB-1のHER2プロモーター領域への結合を抑制していると考えられる。[5]YB-1発現誘導は、ERαのタンパク発現を減少させたが、mRNA発現に変化は観察されなかった。そのため、YB-1によるERα発現制御は翻訳後の制御であると考えられる。そこで、ERαの安定性の検討を行ったところ、YB-1発現誘導によりERαの分解が亢進した。さらに、YB-1発現誘導によりERαのユビキチン化が増加し、ERαのプロテアソームでの分解が亢進した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究において、① ERα陽性乳癌細胞で、核内YB-1発現誘導はHER2発現を亢進しERα発現が低下すること。② ERα標的薬(tamoxifen、fulvestrant)はYB-1のHER2プロモーター領域への結合を増加させ、HER2発現が亢進すること。③ YB-1発現誘導は、ERαのユビキチン化の増加とERαのプロテアソームでの分解を促進すること。を明らかにした。これらの研究成果は当初の計画以上の進展を見せている。
本年度の研究において、乳癌細胞でのYB-1によるERα及びHER2発現制御メカニズムを明らかにした。今後、in vitro及びin vivo系においてYB-1発現誘導時の抗ホルモン薬と抗HER2治療薬の治療効果を動物実験系で検討し、YB-1のバイオマーカーとしての有用性を明らかにしていく。すなわち、(1)マウス乳癌細胞移植実験系において移植腫瘍にYB-1及びERαを強制発現させることで、乳癌治療薬であるタモキシフェンやフルベストラント、トラスツズマブ、ラパチニブ、殺細胞性抗がん剤の治療効果に対するYB-1の活性化や機能的なERαの影響を明らかにする。(2)ヒト乳癌組織でのYB-1とHER2とERα発現を検討する。基礎研究により得られた知見を基にYB-1発現とHER2やERαの発現との相関について、閉経前と後の各々の乳癌患者を対象として、がん臨床-病理-バイオ統計学研究分野との共同研究で明らかにする。
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