研究実績の概要 |
当初、キラルリン酸触媒を用いた隣接基関与によるエナンチオ収束型置換反応の開発研究を計画し、1,3-ジチアンの2位にメチル基を挟んで脱離基を導入した基質を用いて検討を進めてきた。その結果、予測していた隣接基関与による置換反応では無く、硫黄の転位を伴う置換反応が進行することを見出した。インドールならびにピロールを求核剤とし、種々のキラルリン酸触媒を用いてこの転位を伴う置換反応の不斉触媒反応を検討したところ、比較的高いエナンチオ選択性で生成物が得られることを見出した。この転位を伴う置換反応の機構解明を目的として、基質に置換基を導入した反応系などを詳細に検討した結果、エナンチオ選択性は主に硫黄原子が脱離基に対して置換反応する際に発現し、その後のエピスルホニウムイオンと求核剤との反応が立体特異的に進行していることを明らかにした。計算化学による反応解析をした結果、反応が立体特異的に進行する機構はエピスルホニウムのイオン対として生じたキラルリン酸の共役塩基、すなわちホスフェートアニオンが重要な役割を果たしていることを明らかにした。ホスフェートアニオンがエピスルホニウムとC-H…O水素結合を介して相互作用することで、配向が保持されたイオン対中間体が形成される。この中間体に求核剤であるインドールあるいはピロールが反応する際、配向制御されたホスフェートアニオンとの相互作用を経るため立体特異的に進行することを明らかにした。この研究は酸触媒反応におけるの共役塩基の果たす役割を明確にしたものであり、新たな有機分子触媒の開発や反応開発にあたり多くの有意義な情報を提供できると考えている。
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