研究課題/領域番号 |
15J03077
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小川 卓 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | アップコンバージョン / 三重項 / 三重項-三重項消滅 / エネルギーマイグレーション / 自己集合 / 分子結晶 / 太陽電池 / 有機金属錯体 |
研究実績の概要 |
三重項-三重項消滅によるフォトン・アップコンバージョン(TTA-UC)は、ドナーとアクセプターを組み合わせて行う機構であり、低強度で高効率な波長変換が可能であることから様々な分野への応用が期待されている。 従来、固体系、特に結晶系で高効率な TTA-UC を達成する上での最も大きな課題は、分子構造の違いに起因するドナー-アクセプター分子間の相分離と、それによるエネルギー移動効率の低下であると考えられていた。しかし採用者はこれまでの結果から、92% という高いエネルギー移動効率を示しながら、きわめて低い TTA-UC 量子収率と高い励起光強度を必要とする結晶系を見出しており、最適な系の開拓には新たな課題が存在することを明らかにしていた。 そこで本研究では、TTA-UC 特性を低下させる要因を結晶の秩序性低下であると予想し、アクセプター結晶の高い秩序を保ちつつドナー分子を均一に分散させるような戦略を模索した。具体的には、ドナー・アクセプター分子双方にイオン性の相互作用点を導入することで親和性を向上させ、結晶の高い秩序性を保持しつつ定量的なエネルギー移動を達成することを目指した。 設計したアクセプター分子は、ドナー分子との共存下で極めて高い秩序性を有する結晶を構築することが確認された。複合体の TTA-UC 特性を評価したところ、明確な UC 発光が観測されると同時に、エネルギー移動が起きていないことに起因するドナー分子からの発光は全く観測されず、定量的なエネルギー移動が実現していることが明らかとなった。複合体の示す UC 量子収率は 3% と、過去の採用者の系と比較して 30 倍以上高い値を示した。一方で、効率的な TTA-UC に必要な励起光強度は 30 mWcm-2 程度となり、過去の系よりもはるかに弱い励起光の照射で駆動するシステムであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、本研究の目的である固体系での高効率な三重項―三重項消滅によるアップコンバージョン(TTA-UC)を達成するための課題を明確化し、それを克服するための設計指針を打ち立てることを目的として研究を行った。 その結果、アクセプター結晶配列の秩序性向上と相分離の抑制という相反する課題を自ら見出し、イオン性相互作用導入という戦略を取り入れて実際にそれを解決した。また、作成した複合体は結晶系として高い UC 量子収率と低励起光強度での高効率化を実現し、理想的な数値を得るまでに至った。よって本年度の研究は、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ドナー分子、アクセプター分子双方にイオン性相互作用を導入することで、固体系において高い秩序性を保ったまま定量的なエネルギー移動をもたらす系の構築に成功した。今後はこれまでに提案してきた結晶の秩序性が UC 特性に与える影響をより定量的に評価していく必要がある。具体的には、UC 発光の減衰挙動を解析することで、結晶中に存在する欠陥サイトの濃度を評価する。また結晶の秩序性をあえて低下させることで、欠陥サイト濃度の変化が UC 量子収率に与える影響を評価する。 また、実用化に際しては、結晶サイズは光を散乱しにくいナノサイズであることが望ましいと考えられる。結晶成長プロセスを制御することで、高い UC 特性を示す名の結晶の作成に挑戦する。
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