ランダム行列の固有値を有限粒子系とみなし、そのスケーリング極限を取ると無限粒子系の点過程(ランダムな粒子の配置)が得られる。ランダム行列に関する無限粒子系の確率力学を考察するにあたっては、点過程に付随する双線型形式であるDirichlet形式の解析が有効である。無限粒子系の点過程に付随するDirichlet形式には、カノニカルなものが2つある。当該年度はこの2つのDirichlet形式が一致することの条件を与えた。つまりDirichlet形式に対応する確率力学は無限次元確率微分方程式で記述することができるが、この無限次元確率微分方程式の解が一意的であるとき、カノニカルな2つのDirichlet形式が一致することを示した。例えば対数ポテンシャルで相互作用する実軸上の無限粒子系であるサイン点過程など、ランダム行列に関するいくつかの点過程に対して、実際にDirichlet形式の一致を確かめることができる。 さらにDirichlet形式の一致の結果を用い、ランダム行列の力学的普遍性の一般的枠組みを構築することができた。ランダム行列の固有値分布は無限粒子極限で無限系の点過程に収束するが、サイン点過程を始めとする極限の点過程は普遍性を持っている。つまり極限の点過程は有限粒子系の点過程の分布の詳細に依らず、広いクラスの有限粒子系がスケーリング極限で同一の点過程に収束する。この点過程の収束は、対応する確率力学の収束をも導いているはずである。実際にDirichlet形式の収束概念を用いることで、点過程の収束性が良い場合には、対応する確率力学も収束していることを一般論として証明した。この一般論を使うと、ある有限次元確率微分方程式のクラスに対して、それらの解が一斉にDysonモデルなどの普遍的な無限次元確率微分方程式の解に収束していることを示せる。
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