研究課題/領域番号 |
15J03110
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
緒方 雄大 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 高分子半導体 / 分子運動 / 電荷生成 / 界面 / ポリ(3-アルキルチオフェン) / エバネッセント波 / エネルギーデバイス / 過渡吸収分光測定 |
研究実績の概要 |
本研究では、異種固体界面における高分子半導体の分子運動特性と電荷生成過程との相関を明らかにすることを目的とした。そのためには、①高分子半導体膜内部における電荷生成過程に及ぼす分子運動の効果の解明、②界面における光電荷生成過程の評価法確立が求められている。本年度は、アルキル側鎖長の異なるポリ(3-アルキルチオフェン)(P3AT)を用い、膜内部の電荷生成過程に及ぼす分子運動の効果を検証した。また、異種固体界面における電荷生成過程の評価法を検討した。
P3AT膜内部の電荷生成過程に及ぼす分子運動の効果を検討した。過渡吸収分光測定を用いて、P3ATの遷移過程とその速度定数を評価する解析法を確立した。その結果、P3ATにおいて、自由電荷であるポーラロン(P)は静電相互作用により束縛された電荷対であるポーラロン対(PP)から生成することを明らかにした。Pの生成過程の速度定数は、低温では一定であるが、ある温度から温度とともに増加し始めることを見出した。また、全てのP3ATにおいて、この温度がチオフェン環のねじれ運動に対応する緩和温度と一致することを明らかにした。Pの生成過程の見かけの活性化エネルギーとチオフェン環のねじれ運動の見かけの活性化エネルギーが比例関係にあることを見出した。以上より、P3AT膜においてチオフェン環のねじれ運動が光電荷生成過程を支配することが明らかになった。
異種固体界面近傍におけるP3ATの光電荷生成過程について検討した。過渡吸収分光測定にエバネッセント波励起法を組み合わせることで、異種固体界面近傍における光電荷生成過程の評価を可能にした。確立したエバネッセント波励起過渡吸収分光測定に基づき、基板界面近傍においてもPはPPからのみ生成することを明らかにした。Pの生成過程の見かけの活性化エネルギーは、膜内部よりも大きかったことから、界面近傍におけるP3HTの光電荷生成はバルクと比較して抑制されていると結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は今後研究を行っていくうえで極めて重要となる①高分子半導体膜内部における電荷形成過程に及ぼす分子運動の効果の体系化、②異種固体界面における光電荷生成過程の評価法の確立を目的とした。アルキル側鎖長の異なるP3ATに関する検討から、電荷形成過程に及ぼす分子運動の効果の体系化に成功した。また、過渡吸収分光測定にエバネッセント波励起法を組み合わせることで、異種固体界面近傍における光電荷生成過程の評価を可能にした。したがって、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度に確立したエバネッセント波励起過渡吸収分光測定に基づき、ポリ(3-ヘキシルキルチオフェン) (P3HT)膜の光電荷生成過程と異種固体界面からの距離の関係についての検討を行う予定である。エバネッセント波は、入射角度を変えることで、その侵入深さを制御できるため、異種固体界面からの距離と電荷生成過程の関係を評価可能である。合わせて、電荷生成過程に及ぼす固体種(金属、半導体など)の効果も検討する予定である。
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