研究課題/領域番号 |
15J03171
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
猪原 史成 岐阜大学, 連合獣医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | トキソプラズマ / 宿主応答 / 最初期遺伝子 / レポーターアッセイ / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本研究は、トキソプラズマ感染によるマウス行動変化のメカニズムの解明を目指し、最初期遺伝子発現を改変するトキソプラズマ由来因子の同定と、宿主細胞との相互作用機構の解明を目的とした。最初期遺伝子は神経活動に応じて発現が誘導される遺伝子で、神経細胞の可塑性や記憶・学習の成立に重要な役割を担っていることから、原虫因子がこれらの遺伝子発現量を調節することで宿主の神経機能障害につながることが考えられる。 原虫因子探索のためのスクリーリング系を構築した。その結果、候補としたトキソプラズマ由来の分泌タンパク質(61種類)のうち約7割の遺伝子について、哺乳動物細胞発現用ベクターへのクローニングに成功した。 原虫因子のスクリーニングの前に、トキソプラズマが宿主細胞のどのシグナル経路に作用するかを検討した。まず、宿主細胞に各種シグナル経路の応答配列を有するベクターを導入した。次に、トキソプラズマを感染させ、感染により活性が制御される宿主シグナル経路の解析を試みた。その結果、トキソプラズマ感染によりCRE、ERK、JNK経路およびArcプロモーターの活性化を確認した。変化を認めたシグナル経路に注目し、原虫因子のスクリーニングを実施した。その結果、ある種の原虫因子を導入した細胞で、これらの宿主シグナルの活性化が観察された。そこで、これらの標的シグナルによる発現制御を受けている最初期遺伝子の発現量を解析したところ、選択した原虫因子の導入によるArcやc-Fosの遺伝子発現が認められた。 以上の結果より、宿主細胞のCREやERK、JNKシグナルを活性化し標的遺伝子の発現を調節する数種類のトキソプラズマ由来因子が同定された。今回の研究により、宿主の中枢神経機能の改変を担うトキソプラズマ由来因子が選抜され、トキソプラズマと神経系細胞との相互作用機構の解明に重要な基礎データを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に従い、初年度に原虫因子探索のスクリーニング系の構築を行った。また、アッセイに用いる宿主細胞として神経系細胞株であるPC12とNeuro-2A細胞を予定していたが、レポーターアッセイには高い遺伝子導入効率が必要となるため、非神経系細胞株の293T細胞と神経系細胞株のNeuro2Aで実施した。 当初次年度に予定していた原虫因子探索のスクリーニングについても、今年度中にすでに終了し、いくつか候補となる原虫因子の同定に成功した。しかしながら、今回のスクリーニングは培養細胞株のみを用いて行われているために見出された原虫因子によるシグナル活性が、生体内の神経細胞の機能を反映したものかについては検証が不十分といえる。以上のことから、現在までの進捗状況を(2)おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在、これまでに見出した原虫遺伝子の欠損原虫作製に取り組んでいる。遺伝子欠損原虫を用いて、レポーターアッセイで認めたシグナル活性の変化について、ウェスタンブロットおよび間接蛍光抗体法により確認する。これらの実験により、宿主シグナル活性を変動させる原虫遺伝子を同定する。また、神経細胞株を用いた実験系は扱いが容易であるが生体内における神経細胞の機能の保持が問題になるため、マウスの胎児脳由来の初代培養神経細胞を用いて結果の再現性を確認する。In vitroの解析結果から神経細胞のシグナル伝達への作用が明らかになった原虫遺伝子について、対象遺伝子の欠損原虫を用いたマウス感染実験を行い、同定した原虫遺伝子が宿主の行動に与える影響について解析していく。
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