研究課題/領域番号 |
15J03173
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高野 哲也 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 神経極性 / 極性 / 軸索伸長 / Rho-kinase / RhoA / リン酸化プロテオミクス / CaMKI / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
神経細胞は通常1本の軸索と複数の樹状突起を有する高度に極性化した細胞である。軸索と樹状突起は共通の突起から形成されることが知られており、神経極性の破綻が破綻すると複数の軸索が形成される。そのため、1本のみの軸索が形成・維持されることが神経細胞の極性形成において極めて重要である(有村 & 貝淵, Nat. Rev. Neurousci., 2007;髙野ら, Development., 2015)。しかしながら、どのようにして共通の神経突起から 1 本の軸索と複数の樹状突起への運命決定かが制御されるのか、その分子機序は長年謎に包まれていた。そこで本研究では、1本のみの軸索形成を制御する分子機序を細胞外環境から細胞内への一連のシグナル伝達経路まで包括的に解明することを目的とした。これまでに、単一の突起のみに刺激する局所刺激法を用いてNT-3を軸索に刺激したところ、軸索以外の未成熟な突起が退縮することを見つけており、軸索から未成熟な突起に向けて誘導される因子としてCa2+が関与している可能性を見出していた。さらに、Rho-kinaseの阻害剤を軸索以外の未成熟な突起のみに刺激したところ、その突起が急速に伸長し、複数の軸索が形成されることも明らかにしていた。これらの結果から、NT-3に応答して軸索から未成熟な突起に向けてCa2+伝搬が引き起こされ、その下流でRhoA/Rho-kinase経路を介して複数の軸索形成が抑制されている可能性が示唆された。そこで、今年度はこれら仮説を検証するために(1) 軸索から未成熟な突起に伝わるCa2+伝播の可視化、 (2) Ca2+シグナルによるRhoA/Rho-kinase経路の活性化と機能解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は軸索から未成熟な突起に向けて生じるCa2+伝搬の時空間的動態を検討した後に、そのCa2+の下流のCaMKIによるRhoAの活性化機構について検討する予定だった。しかしながら、長距離Ca2+伝搬の下流で神経細胞の極性形成に関与するRhoAの活性化動態を検討したところ、興味深いことに細胞体でのRhoAの局所的活性化が認められた。そこで、細胞体で活性化したRhoA/Rho-kinaseが未成熟な突起の軸索への分化を抑制しているかどうか検討するために、光照射によって活性化する Rho-kinase の新規プローブを作製した。この新規プローブを用いてRho-kinaseの細胞体での局所活性化させたところ、未成熟な突起が急速に退縮することが判った。また、これらの未成熟な突起の退縮は、RhoAの光活性化でも同様に観察された。さらに、未成熟な突起でRho-kinase を局所的に不活性化させると、突起伸長が誘導され、2 本目の軸索が形成された。 これらの結果から、軸索からの長距離のCa2+伝搬によって局所的に活性化するRhoA/Rho-kinaseは複数の軸索形成を抑制していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、軸索からの長距離Ca2+伝播がCaMKK/CaMKIを介してどのようにしてRhoA/Rho-kinaseを活性化せるか、その詳細な分子機序の解明を目指す。既に申請者は、近年新たに開発したリン酸化プロテオミクス解析(Kinase-interacting substrate screening (KISS)法; 天野ら., JCB, 2015)を用いてCaMKIの基質を網羅的に同定した。その中には、RhoAの特異的活性化因子GEF-H1が含まれていた。そこで、まずCaMKIによるGEF-H1のリン酸化部位を同定し、そのリン酸化による生理機能を明らかにする。具体的には、リン酸化GEF-H1のGEF活性及び極性形成への影響を検討する。さらに、リン酸化GEF-H1の生体内での極性形成への影響も子宮内電気穿孔法により解析する。以上の結果を投稿論文としてまとめる。
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