研究課題
申請者はB型肝炎ウイルス (HBV) の感染分子機構の解明に取り組んでいる。これまでに樹立したHBV感染許容性細胞株 (HepG2-hNTCP-C4細胞) を用いたsiRNAスクリーニングおよびマイクロアレイ解析によりHBV感染に関与している“候補宿主因子”として3つのG-protein-coupled receptor (GPCR)とglycosylphosphatidylinositol (GPI) トランスアミダーゼの計4つを得た。これらの“候補宿主因子”がHBVとその感染宿主レセプターであるsodium taurocholate cotransporting polypeptide (NTCP) との結合に関与しているかについて蛍光標識したpreS1ペプチドを用いて評価したところ、3つのGPCRではノックダウンする事でHBV-NTCP間の結合が減少したが、GPIトランスアミダーゼはこれらの結合を阻害しなかった。続いて、4つの“候補宿主因子”がHBVの細胞への吸着から侵入過程に寄与するかについて、HBVと同一のエンベロープタンパク質を有するD型肝炎ウイルス(HDV) を用いて検討した。3つ全てのGPCRの発現低下でHDV感染が減少した一方で、GPIトランスアミダーゼでは影響を与えなかった。加えて、これらGPCRは発現量の低下に伴いNTCPトランスポーター活性を有意に減少させ、NTCPのmRNAに影響無くタンパク質量の減少が認められたことより、NTCPタンパク質の翻訳以降に関与する宿主因子であると示唆された。また、GPIトランスアミダーゼはNTCP非依存的にHBVの細胞内への侵入から核内移行への過程で関与する宿主因子と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
申請者は精力的に研究に取り組み、3つのGPCRとGPIトランスアミダーゼがHBV感染に関与するという知見を得た。上記のGPCRはその発現量の低下に伴い、NTCPの活性およびタンパク質量を低下させたことより、NTCP安定性を制御する因子であることが示唆された。NTCPの安定性制御メカニズムに関しては多くが不明であり、今回の結果はこのメカニズムを解明する上で有用な知見であると考えられる。一方、GPIトランスアミダーゼのノックダウンでは、HBVの細胞への侵入から核内移行の過程を阻害する事で感染を減少させることは示唆されたが、この機序の解明は次年度以降の課題である。以上のように次年度以降の研究の方向性が絞られた点で順調に進展したと評価できる。
本年度の研究結果よりHBV感染過程に関与する宿主因子として3つのGPCRとGPIトランスアミダーゼを得た。これら3つのGPCRはNTCPの安定性に関わる宿主因子であると考えられた。本結果はHBV感染のメカニズムを解き明かすだけではなく、NTCPの胆汁酸取り込みの制御機構を解析する上でも有用なものである。よって次年度の課題の一つとして、3つのGPCRがどのようにしてNTCPの安定性を制御しているのかを解明することを目指す。またこれらのタンパク質がHBVによる発現・活性制御を受けているかを検討する事で宿主とウイルスとの相互作用を明らかにする。さらに、GPCRによるタンパク質の安定性制御がNTCP特異的かあるいは膜トランスポーターに対して幅広く制御を担っているのかについても検討する。GPIトランスアミダーゼについては、まずはHBV感染のどの過程に関与する宿主因子なのかについて調べる。
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