研究課題
申請者はこれまでに樹立した、B型肝炎ウイルス (HBV) 感染許容性細胞HepG2-hNTCP-C4細胞を用いてHBV感染分子機構の解明に取り組んでいる。これまで行った化合物・siRNAスクリーニングより、HBVを感染させる際に細胞に処理する事でHBV感染を強く促進する化合物として、protein kinase C (PKC) 活性化剤であるPMAを見出した。PMA刺激により細胞へ侵入したHBV DNA量が有意に上昇し、HBVと同じ細胞内侵入機構を有すると考えられているD型肝炎ウイルス (HDV) の感染も促進した一方で、細胞内侵入機構が異なるC型肝炎ウイルス (HCV) の感染には影響を与えなかった。これらの結果は、PMA刺激がHBV/HDV感染特異的な因子に影響を与えていることを示唆している。これまでにHBV/HDV感染を強く規定する因子として、NTCPが感染受容体である事が知られている。加えて、HBV/HDV感染過程では、エンベロープタンパク質内のpreS1領域がNTCPと結合する事がウイルス侵入に必須であることが知られている。そこでPMA刺激・非刺激下でのpreS1の細胞内侵入を、TAMRA標識したpreS1のペプチド (preS1-TAMRA)を用いて観察した。PMAを処理していない細胞では、ほとんどのpreS1-TAMRAが吸着後少なくとも30分は細胞膜上に局在していた一方で、PMAで刺激を与えた細胞内ではpreS1-TAMRAがベシクル状に細胞質に局在していた。上記で観察されたPMA処理によるpreS1-TAMRAの取り込みはPKCα、β阻害剤であるGO6976共処理でほぼ完全に阻害されたが、PKCβ阻害剤との共処理ではほとんど影響を受けなかった。加えてPKCαをノックダウンした細胞ではPMAによるpreS1-TAMRAの取り込み効果が著明に減少した。興味深いことにこのPKCα活性化により、preS1-TAMRAに伴ってNTCPも共に細胞内へ侵入していた。以上の結果より、PKCαの活性化によりpreS1-TAMRAおよびHBVの侵入がNTCPを伴って引き起こされると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
申請者のこれまでの研究により、PKC αはNTCPの細胞内局在を制御しており、HBVはこのPKCα-NTCP制御を利用して細胞内へ取り込まれている可能性が示唆された。これまで、HBVが細胞内へどのようにNTCPを利用して侵入を果たしているのかについてはほとんど理解されていない。加えて、NTCPがどのようなメカニズムによりその局在が制御されているかについても多くが不明である。本研究で得た知見はこれらの疑問を解決する上で有益であると考えられる。来年度ではPKCαがNTCPの局在を制御している機序を明らかにし、学術論文で発表する事を期待する。
本研究の結果より、ウイルスはPKCαによるNTCPの細胞内局在制御を利用して細胞内への侵入を達成していると想定された。また、このPKCα- NTCP制御はPKCαの基質である膜タンパク質を介している可能性が考えられる。今後これらのタンパク質によるNTCPの細胞内取り込みのメカニズムをさらに詳細に解析することにより、HBV/HDV侵入機序だけでなく、NTCPおよびこれが関わる胆汁酸取り込みの制御機構の一端の解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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