研究課題
近年、統合失調症および精神疾患モデル動物poly(I:C)マウス脳組織において、LINE-1のコピー数が増大していることが報告された(Bundo et al., 2014)。LINE-1転移上昇の分子機構および脳神経発達異常との関連について解明するため、現在poly(I:C)投与モデルを用いてゲノム・エピゲノム、および発現解析を進めている。また、マウスLINE-1プロモーター領域におけるDNAメチル化率を定量するための実験系の確立を行った。現在、pyrosequencing法を用いたヒトLINE-1メチル化測定系が広く使用されているが、マウスゲノムにおいては、複数のサブファミリーが転移活性を保持している、約200 bpの反復配列(モノマー)が存在しているなど、マウスに適した実験系の構築が必須となる。また、転写活性を持ったプロモーター配列はサブファミリーごとに異なっており、メチル化を測定する際サブファミリーを考慮することが重要である。今回、転写活性を保持したTf I、A、Gf IIのそれぞれに特異的なプライマーを設計し、Pyrosequencerを用いて検討した。野生型マウス由来多組織を用いて検討した結果、組織依存的なメチル化、ハイドロキシメチル化率の挙動を示した。またサブファミリーの分子進化近縁度によって異なるDNA修飾状態を示す可能性が示唆された。成体poly(I:C)マウス前頭葉を用いて検討を行った解析でも、サブファミリーごとのメチル化変化を示し、LINE-1の転移活性は神経発達期におけるpoly(I:C)母体曝露によって大きく変動すること、その活性制御はサブファミリー依存的に行われている可能性が示唆された。現在、胎仔prominin-1陽性細胞におけるRNA-seqおよびproteome解析を行い、LINE-1転写制御にどのような分子が関わっているのか検討している。
2: おおむね順調に進展している
第一に、現在までにマウス試料における簡便な総DNAメチル化量測定法は存在しなかったが、パイロシークエンサーを用いたハイスループット測定法の確立に成功した。本法を用いた多検体解析により、統合失調症神経発達障害モデルマウスでのメチル化量異常を同定した。これらの結果については現在投稿論文として準備中である。第二に、統合失調症神経発達障害モデルの作成条件を検討し、マウス胎児脳組織においてトランスポゾンが安定して転移する条件を確立した。現在、確立した条件下で作成したモデル個体を用いたトランスクリプトームおよびプロテオーム解析を行っており、病態下での脳内トランスポゾン転移の分子メカニズム解明に大きく貢献すると期待される。
胎仔poly(I:C)マウスモデルを用いたRNA-seq、proteome解析を進め、神経発達障害モデルにおけるLINE-1の転写・転移活性にどのような分子やゲノム修飾状態が関連しているのかについて詳細な検討を行っていく。また今後、LINE-1新規挿入のゲノム部位を探索していくとともに、poly(I:C)作用経路またはLINE-1転写経路を阻害する薬剤を投与し、ゲノム解析および行動実験を行う予定である。
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