研究課題/領域番号 |
15J03214
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
斉藤 茜 九州大学, 人文科学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | マンダナミシュラ / 言語哲学 / 聖典解釈学 / 知覚論 / 認識論 |
研究実績の概要 |
報告者は、昨年度に引き続き九州大学インド哲学史研究室に所属し、片岡啓准教授の指導の下、中世インドの哲学者マンダナミシュラの著作『命令の分析』の翻訳作業を行ってきた。『命令の分析』は前半部分の講読が終了し、後半部に入ったところで、海外出張の時期を除き順調に進んでいる。読書研究会は毎週継続して行われ、多くの進展があった。それとともに、今年度は以下の国内外の活動が行われた。 報告者はポートランド滞在中、6月にオーストリア・ウィーン科学アカデミーで開催された研究会に参加した。これは、6世紀のミーマーンサー学派の哲学者クマーリラバッタの著作『シュローカヴァールッティカ』文意論の章及びその注釈の集中講読会であり、アカデミーの研究者が主催し、ケンブリッジ大学の学生が中心となって読み進める形で進められた。また、ウィーンでの研究会の直前に、報告者はドイツのライプツィヒ大学を訪れ、現地の研究員とともに同じくクマーリラバッタの著作の研究会を行った。 ケンブリッジ大学では11月にインド言語理論・文意論に関するコロキアムが開催され、報告者は発表者として招待を受けた。古代から中世にかけてのさまざまな哲学者の説いた言語理論に関する研究発表と、『シュローカヴァールッティカ』とその注釈の講読研究会が行われ、言語哲学を研究する多くの研究者がさまざまな国から集まった。中世インドの言語論では、文意理解の根拠が、①音素、②単語、③語意、④文のどれであるかが盛んに議論されてきた。報告者はこの四立場に、音素という切り口から接近し、①を支持した9世紀カシュミールの学者ジャヤンタの『論理の花房』、③を支持したクマーリラの『シュローカヴァールッティカ』、及びヴァーチャスパティの『真理の滴』のそれぞれの思想を、④を支持したバルトリハリ・マンダナと比較した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時点では予定していなかったが、以下の重要な研究の進展があった。 1) 報告者は、2016年5月~7月にかけて、アメリカオレゴン州ポートランドにて研究活動を行い、『三宝の考察』の集中研究会を行った。このテキストは、二元論を奉じる正統シヴァ派の哲学者シュリーカンタ(12世紀頃)が著したものであり、言語様態論や森羅万象の原因としての言葉についての多くの議論がなされている。特に概念作用と言葉の精髄の滴である「ビンドゥ」を言語の質料因として論じており、シヴァ派の言語理論が5世紀の文法家であり哲学者であるバルトリハリの哲学から、どのように発展してきたのかを考察するうえで、非常に多くの手がかりを残す。報告者はこれまでシヴァ教一元論の言語理論を追ってきたが、この研究会を切掛けに、『三宝の考察』の翻訳研究に方針を転換し、翻訳作業を継続することとなった。この研究会の結果は、2016年7月に行われた横地優子教授の科学研究費助成事業(基盤研究B)「ヴィシュヌ教からシヴァ教へ―インド中世の始まりにおける宗教文化の転回―」のワークショップ(講読研究会)で発表し、また7月末に開催された第27回西日本インド学仏教学会学術大会(九州大学)にて発表した。 2) 報告者は2017年2月~3月半ばにかけて、インドのフランス極東学院ポンディシェリ支部にて研究活動を行った。当院所長であるDominic Goodall教授は正統シヴァ派の専門家であり、氏の指導の下、『三宝の考察』の講読研究会を継続した。また、マンダナミシュラの専門家であるHugo David博士とともに、マンダナの著作である『ブラフマンの立証』の講読研究会を行った。報告者はこれまで『ブラフマンの立証』の二章の途中まで読み進めていたが、氏の指導の下、第二章の講読を完了した。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は、『命令の分析』の研究を九州大学で行い、『ブラフマンの立証』の研究と正統シヴァ派の言語論の研究をインドで行うという型ができた。フランス極東学院ポンディシェリ支部を訪問するのは今年が初めてであったが、当地での研究の進展はめざましく、2017年度も引き続き当地を訪問し、Goodall教授、David博士の指導の下で、研究会を継続する予定である。2016年度は、海外に長期間滞在してテキストを集中的に講読する期間が長かったため、メインテーマであるマンダナのテキスト読解に関する研究計画は非常に順調に進行したが、2015年度に目標に掲げた、博士論文の出版準備に手が回らなかった。そのため、最終年度である2017年度は、博士論文の出版をひとつの目標として設定する。 また、2015年度に開催したカシュミールワークショップを、2016年度は資金難のため行うことが出来なかったが、2017年度の冬期に開催の目処が立った。よって来年度は、再び京都大学と連携を取りながら、カシュミール地域研究にも目を向ける予定である。
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