研究課題/領域番号 |
15J03337
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
檀上 隆寛 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 多糖類 / エステル化 / バイオマス / プラスチック / バイオベースポリマー |
研究実績の概要 |
平成27年度は以下の3項目の研究を行った。 (1)キトサンのアシル誘導体の合成と特性評価:キトサンのアミノ基および水酸基に直鎖状のアシル基(炭素数C = 3~12)を導入した、キトサンアシル誘導体の合成を行った。いずれの誘導体も置換度は3以上の非晶性ポリマーであり、有機溶媒への溶解性の向上と熱溶融性が発現した。熱成形およびソルベントキャスト法により、透明性のフィルムの作製が可能であった。キャストフィルムを用いた引張試験では、石油系非晶性高分子のポリスチレン、PMMAと比べて高い延伸性を示した。以上から、キトサンのアシル化による熱可塑性プラスチック化を達成できた。 (2)キトサンの位置選択的置換誘導体の合成:キトサンの2位のアミノ基、3,6位の水酸基に対し選択的なアシル基の導入を行うため、以下の位置選択的アシル化反応および保護基の導入を行った:①アミノ基の選択的アシル化、②2位アミノ基へのフタロイル基(保護基)の導入、③N-フタロイル化後の6位O-トリチル基の導入、④N-フタロイル化後の水酸基のアシル化。いずれの反応もほぼ位置選択性を発現しており、十分な置換度を示した。しかし③の6位O-トリチル化反応はキトサン自体の低分子量化(Mw< 3万)を引き起こし、高分子量の維持が困難であった。そこで、②のアミノ基保護化を利用した位置選択的誘導体の合成を進めている。 (3)酵素触媒を用いた多糖類のエステル化:環境に優しい材料化反応プロセスを開発することを目的とし、酵素触媒を用いた多糖類のエステル化反応を試みた。キトサンおよびN-フタロイル化キトサンに対して、固形化酵素Novozyme435を触媒とした酢酸ビニルとの反応を種々の溶媒中で行った。Novozyme435は一級水酸基(C6位OH基)に選択的に反応することが知られているが、得られた誘導体のエステル置換度はいずれもDS=0.2~0.3程度であり、完全なエステル化(DS=1)には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度予定していたキトサンのアシル誘導体化はおおむね成功しており、各種物性測定およびフィルム等への成形まで行うことができた。また、キトサンの位置選択的アシル化では高分子量を保ったままアミノ基と水酸基の反応性の差別化を行うことができ、位置選択性の発現とさらなるアシル化反応を行うことが可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は以下の3つのテーマについて研究を行う予定である。 (1)キトサンの混合アシル化:キトサンのアシル誘導体化において、比較的反応性の低い長鎖カルボン酸(C>8)とのアシル化反応では強酸(トリフルオロ酢酸無水物)を反応促進剤とした。その結果、化合物の分子量が短鎖カルボン酸誘導体と比べて低くなり、フィルム化した際の強度および伸張性が劣る結果となった。そこで、部分的に短鎖アシル基を導入後、DMAc均一溶液中での長鎖アシル化反応を行うことで、分子量低下を抑制しつつ長鎖アシル基を導入したキトサン混合アシル誘導体の合成を試みる。 (2)キトサンの各種位置選択的アシル誘導体の合成と物性評価:アミノ基の選択的反応および選択的保護化を利用し、アミノ基と水酸基に異なる置換基を導入したキトサン誘導体の作製を試みる。またフィルム等へ成形した状態でのアミノ基の修飾もしくは脱保護を行うことで、表面の親疎水性の制御や物性改質を試みる。 (3)多糖類への分岐状エステル基の導入および物性評価:新たな研究項目として、天然多糖類の水酸基に分岐状エステル基を導入した誘導体の合成を試みる。分岐状の置換基は同炭素数の直鎖状置換基に比べて嵩高く、多糖分子鎖の分子間力や剛直性に大きく影響すると考えられる。そのため、多糖類の熱可塑化を行うとともに従来の多糖エステル誘導体と比べて特異的な物性の発現が期待できる。手始めにセルロース試料および短鎖分岐状カルボン酸(C=3~6程度)を用いたセルロース誘導体の合成を行う予定である。
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