1. セルロース分岐上エステル誘導体の合成、物性および結晶構造解析 昨年度に引き続き、本研究では炭素数(C)= 4~7の分岐状アシル基を導入したセルロース分岐状エステル誘導体を合成し、従来のセルロース直鎖状アシル誘導体と比較して、側鎖の分岐構造が熱および機械物性、結晶構造に与える影響を調べた。熱分析およびX線構造解析の結果、すべての分岐状エステル誘導体は結晶性を有し、融点(Tm)およびガラス転移点(Tg)は炭素数の増加に伴い単調に減少することがわかった。直鎖エステルと分岐エステルを比較すると、C = 5~7ではほぼ同じTmおよびTgを持つのに対し、C=4の分岐エステルは直鎖状エステルより特異的に高いTmを示した。フィルムの引張試験では、分岐エステルは同炭素数の直鎖エステルに比べて高い弾性率と降伏応力、および低い破壊強度と延伸性を持つ傾向が見られた。分岐状エステルのうち、セルロースイソブチレート(CTiB: C=4)およびイソバレレート(CTiV: C=5)の結晶構造解析を行った結果、結晶系および格子定数は直鎖エステルであるセルロースプロピオネート(CTP: C=3)と部分的に類似しており、分子鎖方向に3回らせん対称性をもつ特徴的な結晶構造を有していた。この3回らせん対称性は、セルロースアシル誘導体のうちプロピオネートのみに観測されていた特異的な構造であり、分岐構造の導入によって3回らせん対称性が発現したことは非常に興味深い。以上の結果から、分岐状エステルは同炭素数の直鎖エステルと異なる結晶構造を持つために、異なる熱物性および機械物性を示したと思われる。置換基構造と物性との関係性をより詳細に解明することで、セルロース系材料の更なる物性の制御や機能化が期待できる。
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