修士課程で行った理論分析を発展させるため、スラヴ諸語に関する記述研究から音交替のデータを幅広く集め、整理した。特にロシア語・ポーランド語・チェコ語については、オンラインで公開されている辞書からデータを収集し、数量的分析を開始した。なお、修士課程での成果については、6月に国内外の学会で発表を行った。さらにロシア語については音韻論的一般性を実証するため、外来語及び新語に見られる音交替について分析を開始し、8月に発表を行った。 9月よりロシアに滞在し、ロシア国立人文大学の教員の指導のもと、ロシア語のデータ収集を本格的に開始した。まず文献研究として、最新の発音辞典、外来語辞典、新語辞典及び俗語辞典からデータを収集し、整理を行った。特に着目したのは、本来語に見られない、母音[e]に先行する子音の硬口蓋化回避や、アクセントを持たない母音の弱化回避である。全体的に辞書間における発音表記の相違が散見され、また正書法の影響もあり、実際に話者がどのように発音しているのか、また形態をどのように解釈しているのかについて、不明瞭な部分が多い。これを解決するため、母語話者を対象としたアンケート調査及び単語・文の読み上げを行ってもらう調査を計画し、一次調査を開始した。 また、スラヴ諸語の類型的研究を行うため、ロシア語・ポーランド語・チェコ語のデータ及びロシア語諸方言に関する記述研究から、音交替の類似点及び相違点の整理を行った。特に着目したのは、硬口蓋化子音の質の相違や、母音交替の共通性及び相違点である。今後はセルビア語・クロアチア語・ブルガリア語にも対象を広げて継続する。
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