前年度までに収集したデータの分析を引き続き行い、理論的分析を行った。その上で結果をまとめて国内外の学会で発表を行うとともに、論文の執筆を行った。 まずロシア語の硬口蓋化や母音弱化といった一定の音韻的条件下で例外なく起こる交替現象については、最適性理論の枠組みで、通言語的な性質と関連付けて仮定されてきた音韻的制約によって説明した。一方で音韻的一般化の例外が観察される現象については、語彙的ないし形態論的要因を考慮 して分析を進めた。 語彙的な性質を議論する上では、当該現象の音韻的生産性に着目した。これまで種々の音交替について数量的傾向を調査した結果、比較的頻度が高く、また外来語などにも拡張するような生産性を持つものと、一部の語彙項目に限定された例外的な現象とに分類すべきであることがわかった。前者については語彙の階層化を仮定し、ある語彙層についてはそれに限って適用される忠実性制約によって交替が回避される。語彙層の境界は固定されておらず、今後も適用語彙は拡張することが予測される。一方で後者については、特定の語彙についてのみ指定された基底表示から、当該の交替現象が生じると説明できる。 形態論的要因については、特定の条件において作用する制約を仮定するとともに、語形変化パラダイム内での音形の統一性(paradigm uniformity)が関係していることを主張した。 並行して、これまでの研究成果を基に博士論文の執筆を進めた。1月末に草稿を提出し、現在審査中である。
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