研究課題
ホモシステイン(Hcy)の血中濃度上昇は、心血管病発症の独立危険因子として認識されているが、その機序については未だ不明である。これまでの解析により、私はHcy代謝酵素であるCystathionine β-synthase(CBS)欠損マウスの肝臓(脂肪肝)における脂質代謝の主要転写因子Peroxisome proliferator-activated receptor alpha (PPARα)の活性が低下すること、またTR-FRETアッセイによりホモシスチンによりPPARαとコアクチベーターの会合が阻害されることを見出し、新規Hcy標的として注目している。本研究課題ではその結合様式を明らかにすることを目指しているが、本年度は下記の4アプローチによりその課題に迫った。①Biacoreによる分子間相互作用解析を行い、TR-FRET結果の再現に成功した。さらに、自分で立ち上げた新規TR-FRETシステムにおいてもホモシスチンの阻害効果を確認した。②コンピュータシュミレーションから推定される結合関与部位のアミノ酸の点変異体を作成したが、変異に基づくホモシスチン結合能の変化は確認できなかった。③ホモシスチンによるPPARα活性化阻害を細胞レベルで調べるため、HepG2細胞に3xPPREの下流にルシフェラーゼ酵素遺伝子を有するプラスミドを遺伝子導入・発現させ、アゴニストとホモシステインを添加後のルシフェラーゼ酵素活性測定を行った。しかし、ホモシステイン刺激により細胞死が起こる、などの理由によりうまくいかなかった。④フェノフィブレート餌及びメチオニン餌を作成し、野生型及びCBSヘテロ欠損マウスに与え、食餌性高ホモシステイン結晶誘導時のPPAR活性に対する影響を調べた。メチオニン餌投与によりPPARα活性の若干の低下は見られたものの、血中ホモシステイン濃度に対応した変化ではなかった。
2: おおむね順調に進展している
順調に進んでおり、主に時間を費やしている①について説明する。まずヒトPPARα全長タンパク質を大腸菌により発現させ、センサーチップSAにコアクチベーターペプチドであるPGC1αを固定し、そこへhPPARαタンパク質とアゴニストあるいはアンタゴニストを流し、レスポンス変化を観察した。すると、アゴニスト添加時に相互作用の増大が観察され、そこにホモシスチンあるいはシスチンを共存させるとその増大が抑えられた。しかし、この条件ではチップの再生がうまくいかず、同チップで再現性を確認することはできなかった。一方、hPPARαタンパク質をセンサーチップCM5に固定し、アゴニストやホモシスチンを流す実験では、レスポンスを確認できなかった。研究を進めていく中で、実はhPPARαの全長タンパクは非常に安定性が低く、チップ固定時に活性を失うことが判明した。また、hPPARα全長タンパク質とPGC1αペプチドを用いてTR-FRETによる相互作用検出を試みたが、DTT共存無での測定が難しく、これも安定性が課題となった。そこで、共同研究者である山梨大学の大山拓次准教授にhPPARα-LBDプラスミドとその発現、精製方法について御教授頂き、この精製hPPARα-LBDタンパク質を用いて、Biacore、そしてTR-FERT実験を再度試みた。その結果、Biacoreでのチップ再生能が大きく改善し、それによりデータ再現性が向上した。また、TR-FRETでもDTT共存無でデータが得られるようになり、ホモシスチン阻害効果も確認できた。
まずhPPARαとホモシスチンの共結晶化により結合部位と阻害様式の同定を行う。結晶化に必要なタンパクの精製方法、結晶化の方法については、既に大山准教授に御教授頂いている。まず、一般アゴニスト共存下で精製したhPPARα-LBDが結晶化グレードであることを確認後、ホモシスチンとの共結晶化を目指す。適当な結晶が得られ次第、X線結晶構造解析を行う。また、LC-MS/MSを用いて組織中ホモシスチン/シスチン/GSSGを定量し、CBS欠損マウスの肝臓においてもPPARαとCoactivatorの会合がホモシスチンにより阻害されうる濃度であるか検討する。PPARαシグナリングに影響を与えうるホモシスチン/シスチン濃度がCBS欠損マウスあるいはCTH欠損マウスの肝臓で存在しうるかを検討する。血中総Hcy濃度はCBS欠損マウスとCTH欠損マウスではほぼ同等(180 μM)であるが、組織中における濃度は不明である。我々が通常用いている蛍光アミノ酸ラベルHPLC法による測定では、低濃度のこれらジアミノ酸の定量には至っていないが、今後はより高感度のLC-MS/MSを用いて定量する。さらに、血管組織やマクロファージなどを用いてPPAR阻害と動脈硬化との関連を明らかにする実験を開始する。PPARγアゴニスト投与により、マクロファージPPARγが活性化され、動脈硬化進展が軽減されるという既報があり、ホモシスチンによりPPARγが阻害されることで動脈硬化を悪化させる可能性について検証する。
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