我々ヒトの体内で生体制御を行っているタンパク質リン酸化酵素 (プロテインキナーゼ:PK) の過剰な酵素活性は、がん等の重篤な疾患に繋がることが知られている。そのため、PK 阻害剤は、抗がん剤になり得ると考えられており、既に多くの PK 阻害剤が臨床で利用されている。阻害剤の評価には、PK 活性検出法が不可欠である。従来の PK 活性検出法には、放射性物質の使用、特異性の低い抗リン酸化アミノ酸抗体の利用から、その普及が限定されている。本研究では、これらの問題を克服することで、高い汎用性を実現した新規 PK 活性検出法の開発を目指した。戦略としては、使用する材料自体を替え、リン酸基の認識に抗体以外の材料を利用することで、汎用性の改善ができると考えた。そこで着目した材料が最も汎用されているリン酸基認識錯体 Phos-tag と量子ドット (QD) である。蛍光性ナノ粒子である QD は、その優れた光学特性から、蛍光共鳴エネルギー移動 (FRET) に基づく検出法における FRET アクセプターとして頻用されている。本研究では、この Phos-tag と QD を用いた FRET に基づく検出法の開発を目指した。本年度は、前年度までに合成した Cy5 修飾 PKA 基質ペプチド (Cy5-S pep) を用いて、実際の PKA 精製酵素の活性を検出できるかを評価した。様々な濃度の PKA を Cy5-S pep に加え、リン酸化反応を行った後、反応溶液を Phos-tag-QD と混合しその蛍光スペクトルを測定した。その結果、PKA の濃度が高くなるにつれ、より多くの Cy5-S pep がリン酸化され、それに伴い、Phos-tag-QD と会合するペプチドが増加し、結果として FRET がより生じ蛍光強度が変化した。以上から、本システムにより、リン酸化率を検出できると示唆された。
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