研究課題/領域番号 |
15J03374
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
河野 隆太 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 高性能計算 / スモールワールドネットワーク / 分散ルーティング / デッドロックフリールーティング |
研究実績の概要 |
大規模な科学計算用システムであるエクサスケール・コンピューティングや,ビッグデータ処理を目的とする商用のウェアハウススケール・コンピュータを実現するため,従来の並列計算機用ネットワークに代わる,大規模な並列計算機向けの高性能な専用ネットワークが求められている. 一方で,ノード数をNとした際に平均経由ノード数がlog Nに比例して小さくなるスモールワールドネットワークが近年注目されており,その一種であるランダムネットワークを並列計算機向けに用いた場合,従来の規則網に比べエンドホスト間の通信遅延を大幅に削減できることが示されている. ランダムネットワークを用いた大規模な高性能計算機の実現のためには,(1)商用スイッチが保持するテーブルサイズの削減や(2)デッドロックと呼ばれる通信の行き詰まりの回避といった多数の課題が残されている. これらを解決するため,第一年度である2015年度において申請者は,先述の(1)の問題を解決するため,Compact Rouitngと呼ばれる必要テーブルサイズの小さいルーティング手法を応用し,ランダムネットワーク向けの分散ルーティング手法を提案した.さらに,(2)の問題については,任意のネットワーク及びルーティング手法に対して,デッドロックを保証するために必要な仮想チャネル数を削減する新たな手法を提案した. これらの手法は従来ランダムネットワークの研究であまり検討されていない実装面を強く意識したものであり,実システムへの応用が期待できる.今後は実アプリケーションを用いた提案手法の性能評価を行うとともに,耐故障性の向上や負荷分散を実現するための機構についても検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は研究開始当初,スモールワールド・ネットワークを用いた大規模な高性能計算機の実現のため,従来の規則的なネットワークでは問題とならなかった実装上の問題点に着目し,それらの解決を目指した.考察の結果,申請者は,不規則ネットワークでは (1) ネットワークの大規模化に伴いスイッチのテーブルサイズが増加してしまうこと,さらに (2) デッドロックと呼ばれる通信の行き詰まりの回避が困難であること,といった問題点を見出した. そこで,第一年度である2015年度において申請者は, (1)の問題を解決するため,不規則ネットワークに広く応用可能な,必要テーブルサイズの小さいルーティング手法を考案した.さらに,(2)の問題を最小コストで解決するための,仮想チャネル削減方式を提案した. このように,申請者は,進学時より行っていた自らの研究を見直し,解決すべき課題を足元から固めつつ,本質的なテーマに対し新しく効果的な提案を行った.これらの研究は対外発表においても高く評価されており,電子情報通信学会ICD研究会若手優秀研究賞を受賞した.また,現在国際学会にも論文を提出中であり,業績面における進展も順調と言える.
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今後の研究の推進方策 |
第二年度である2016年度において申請者は,以下の通り研究予定を立てている. (1)’ 不規則ネットワーク向けルーティング方式のMPLSを用いた実装: 第一年度において申請者が提案した不規則ネットワーク向けのルーティング方式 (1) を実装するためには,従来の商用スイッチでのルーティング方式に加えて新たなルーティング計算論理が必要となる.この問題を解決するため,MPLS (Multi-Protocol Label Switching) と呼ばれる,ラベルを用いたタグ付けによるルーティング制御技術が有効であると考えられる.申請者はこの技術を提案手法に適用し,実ネットワークで実装可能とするための手法を検討する. (2)’ 不規則ネットワーク向け仮想チャネル削減方式のInfinibandネットワークへの実装: 第一年度において申請者が提案した不規則ネットワーク向け仮想チャネル削減方式 (2) を,Infinibandネットワークへ実装するための手法について検討を行う予定である.Infinibandネットワークは,世界の高速な計算機システムのランキングであるTop500に掲載されているシステムのうち4割以上で採用されているネットワークである.このInfiniband技術においては,各スイッチにおいてパケットの持つヘッダ情報からそのパケットに割り当てられる仮想チャネル番号が決定される.よって,Infinibandにおいては,申請者の提案手法によって決定された各パケットの仮想チャネル番号を,パケットのヘッダ情報へと割り付ける必要がある.その際,パケットサイズの増大を防ぐため,最小の情報量での割り付けが必要となる.このようなヘッダ情報の最小化を行うため,仮想チャネル番号とヘッダ情報の効率的なマッピングを実現する新たな手法について検討する.
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