平成27年4月から平成28年3月は、主に指導教官の村山斉氏とCompactSUSY模型という素粒子標準模型を超える理論候補の一つを先行研究よりも正確に検証するための理論的計算を進め、その成果を博士論文として提出し受理された。 超対称性(SUSY)理論が素粒子標準模型を超える理論を探索する物理学者に注目されて久しい。加速器実験の結果によると超対称性粒子がTeVスケール以下の理論は排除されており、検証が難しいという問題と階層性問題をはらんでいる。しかし、超対称性粒子たちが近い質量を持っている場合、上の問題が解決できる可能性が提唱されており、今回研究の対象としたCompactSUSY模型はそれを体現する模型として、注目すべきである。CompactSUSY模型は5次元空間模型であり5次元方向のコンパクト化によって超対称性を破る。この超対称性破れの機構はScherk-Schwarz機構と呼ばれる。全ての超対称性粒子が同じ機構で質量を持つため、その値もtree levelでは同じである。輻射補正によってその縮退は破れるのだが、その補正が小さいという保証は無く、大きい場合は元々の現象論的モチベーションを失ってしまう。輻射補正が加速器実験と整合するように理論のパラメータを調査していくのが必要であるが、CompactSUSY模型の輻射は今まで完全には計算されておらず、今回の研究ではそれを行ったのである。
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