研究実績の概要 |
昆虫や両生類から酵母のような微生物まで、多くの生物では、異性との交配に性フェロモンが利用されている。フェロモンとその受容体間の認識は、種ごとに厳密に規定されており、遺伝的要因などでこれらの認識が変化することが、適切な交配を妨げる要因になると考えられている。しかしながら、自然界でフェロモンとその受容体の新しい組み合わせが生じるメカニズムについては、あまり分かっていない。 そこで本研究では、Schizosaccharomyces pombeとその近縁種Sz. octosporus間における比較解析により、フェロモンと受容体間の認識特異性の遺伝学的な検証を行った。Sz. octosporusはこれまで、実験にはほとんど使用されておらず、この種の実験室株の作製と、遺伝子組換え技術の開発を行った (Seike et al,, FEMS Yeast Res, 2017)。これを用いて、両者の間で交配前隔離の程度を調べた。分裂酵母にはPlus型とMinus型の2つの交配型が存在し、それぞれの細胞から分泌される異なるフェロモンペプチドが、異性細胞間の交配に必須である。まず、Sz. pombeの細胞でSz. octosporusのフェロモン遺伝子を導入した。すると、面白いことにSo-M型フェロモンは機能しなかったが、So-P型フェロモンは一部が機能した。また逆にSz. octosporusの細胞でSz. pombeのフェロモン遺伝子を導入しても、Sp-P-factorが種を超えて機能することを見出した。以上の結果から、M型フェロモンは種特異的に作用するが、P型フェロモンは他種にさえ作用することが分かった。おそらく、2つのGPCRの特異性の違いによるものであろう。本研究により、フェロモンと受容体の共進化のメカニズムの一端を解明することはできたと思われる。
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