本研究は倍数体種において複数回の独立起源で生じた系列間で生殖的隔離が生じうるのかを複数の分類群で検証することを目的としている。本年度は1)ヌリトラノオに関する昨年度までの成果の国際学会発表と国際誌論文発表、昨年度より引き続き行なっている、2)ノキシノブ4倍体の複数回起源と遺伝構造、及び3)ゲジゲジシダ倍数性複合体の分類と4倍体の遺伝的構造について実施した。 ノキシノブ4倍体に関しては、昨年度において日本列島での東西分化と東西間での遺伝交流の不在が確認された。本年度においては境界地域でのサンプリング数を増やすととも、親種を含めた系統解析、東西間雑種の稔性の確認を行なった。結果として、東西分化は更新世氷期に東西それぞれの逃避地において東西それぞれの系列が独立に生じたことが原因となっていることが示唆された。また東西間の自然雑種の胞子稔性は複数の集団を通して、正常個体と比較して50%以下まで低下することが明らかになった。このことは異所的に生じた独立起源系列が急速に生殖的隔離を発達させる可能性を示すものである。この結果とノキシノブ倍数性複合体の分類及び記載に関して、国内学会での発表及び、論文執筆を行なった。 ゲジゲジシダに関しては昨年度から引き続き、海外の共同研究者とともに韓国及び台湾までサンプリング地域を広げ、遺伝子型の決定及び系統解析を行なった。日本及び韓国のゲジゲジシダ4倍体は単一の遺伝子型が広がっており、単一起源の系列が広域に分布していることが明らかになった。本研究の対象とはならないが、この結果は単一の系列が様々な環境に適応し、分布している可能性を示すものであり、非常に興味深い結果である。昨年度までのゲジゲジシダ倍数性複合体の分類学的研究及び系統解析、本年度の成果に関して、論文の執筆を進めている。
|