研究課題/領域番号 |
15J03447
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
トープラサートポン カシディット 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | 量子井戸太陽電池 / キャリア輸送 / 電子と正孔 / 実効移動度 / 擬似バルク近似 / 特性予測 |
研究実績の概要 |
量子井戸太陽電池の特性向上に向けて量子井戸構造におけるキャリア輸送過程を明らかにすべく,以前提案したキャリア走行時間測定法を用いてキャリア輸送の評価を行った.p-on-n構造および極性を逆にしたn-on-p構造の量子井戸太陽電池を作製し,電子と正孔両方の走行時間,走行速度,実効移動度を井戸数および内部電界の関数として解析した.結果として,一般的な量子井戸は電子と正孔の速度が量子井戸を通過中に一定であり,内部電界にも線形比例し,バルク材料の性質とよく似ている.しかし,電子と正孔の実効移動度は同程度であり,バルク材料と異なった性質も示した. 上記の結果は,量子井戸を適切な電子と正孔の実効移動度を持ったバルク材料として近似できることを意味する.この「擬似バルク近似」の妥当性を議論するために,キャリアダイナミックスを記述する微視的なモデルを考察した.モデルを解くことによって,太陽電池のような低電界デバイスではキャリアの速度と電界が線形比例していることがわかった.また,疑似バルク近似を用いてシミュレーションした光電流成分が実測値に一致した.以上の考察により,実効移動度を持ったバルク材料として近似することができることを示唆し,新たな知見が得られた.この近似を用いれば,複雑な性質を持って特性の予測が困難な量子井戸は,簡単なドリフト拡散モデルで説明できるようになり,量子井戸の設計の段階で太陽電池特性が予測できるなど設計指針に重要な概念といえる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.15 eVなど小さいバンドギャップの量子井戸太陽電池を評価する予定であったが,電子と正孔の輸送の比較のほうが重要と考え,後者にとりかかり先に調査することにし,重要な知見が得られた.従来予定していた小さいバンドギャップの量子井戸太陽電池の評価はこれからする予定である. 得られた成果を研究実施計画通りに6月に開催した“the 42nd IEEE Photovoltaic Specialists Conference”および2月に開催した”SPIE Photonics West 2016”で学会発表をし,当該内容を学術論文に投稿した.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の実験の方向性として,量子井戸太陽電池のより詳細な理論解析と,より広い動作状況下での特性の調査を進める予定である.前者は光電流特性だけでなく暗電流特性も解析的な記述ができないかを議論し,量子井戸太陽電池の開放電圧の特性予測ができるモデル構築について調査する.後者は,集光下の特性,異なるバンドギャップを持った量子井戸の特性,さらに今までのInGaAs/GaAsPとは別の材料系に議論を展開して,特性が今まで調べたのと同様か否かを調査し,量子井戸太陽電池の一般論を議論する予定である.
|