研究実績の概要 |
本年度は、前年度に引き続き血液サンプルから生体内の標的分子解析を実現する方法論の確立に取り組んだ。また、得られた研究成果の一部を論文発表した (T. Nishihara et. al. ChemBioChem in press)。 本方法論では、標的分子との反応に伴い、アセトアミノフェン (APAP) を放出する機能性分子 (synthetic biomarker) を利用する。設計した機能性分子を生物個体に対して投与し、一定時間経過後、血液サンプルをサンプリングする。その後、得られた血漿サンプル中の分子プローブ由来成分 (APAP, APAP conjugates, synthetic biomarker) をLC-MSにより定量する。標的分子の産生量は、標的分子の変換反応前後の成分の濃度比 ((APAP + APAP conjugates)/synthetic biomarker) を取ることで推定可能となる。 実際に、過酸化水素を標的分子のモデルとし、本方法論の実現可能性を検証したところ、先述した濃度比が、加えた過酸化水素量に応答することを明らかにした。過酸化水素は、がんや糖尿尿など様々な疾病との関連が示唆されているため、過酸化水素量をモニターできる本方法論が果たす役割は非常に大きいと考えられる。また、本方法論は、過酸化水素に限らず、多様な標的へ応用可能と期待される。そのため、今後、がん特異的な酵素を中心に様々な標的に対して本方法論を適用し、がん診断に向けた可能性の検証を進める予定である。
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