本研究課題で取り扱う重力レンズ現象とは、遠方天体の像が、観測者と遠方天体の間に位置する質量分布によってゆがめられる一般相対論的な効果である。一般に重力レンズ効果による像のゆがみ具合はわずかなものであるが、統計処理を施すことにより視線方向に位置する質量分布を再構築することが可能である。重力レンズ現象によって再構築された質量分布は、我々の宇宙の組成や膨張史に依存しているために、重力レンズ解析により我々の宇宙の組成や膨張史に制限を与えることができる。採用第3年度は、すばる望遠鏡の広視野撮像カメラHyper Suprime-Cam(HSC)を用いた大規模銀河撮像観測による重力レンズ解析を念頭においた宇宙論研究を行った。現在世界各地ですすめられている銀河撮像観測は、いずれも1000平方度を超える広視野を観測する予定である。このような現状を鑑み、申請者は全天を確保する弱重力レンズシミュレーションを利用し、現実的な銀河撮像観測の模擬データの作成に取り組んだ。採用第2年度に開発した模擬観測データの作成手法は、実観測で得られる銀河の形状情報と三次元位置情報をもとにしているため、観測に起因する複雑な効果を考慮しやすいという利点がある。申請者は、開発した手法を、すばるHSCサーベイによる銀河データに適応し、2200個の模擬観測データを作成した。この巨大な模擬観測データ群は、HSCサーベイの宇宙論解析の統計誤差を決める上で主要な役割を果たすことが期待される。
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