【研究目的】インドネシア東部の村落部は、学術研究の対象として重要であるが、これまでの先行研究は限られていた。1990年代までの研究ではサブ・ライジュア県の村落地域は、パルミラヤシ(Borassus flabellifer)という特定のヤシに食料供給を依存しているとされたが、その後市場経済が徐々に浸透するなどして生じた変化の実態は不明であった。本研究では、この地域の人々の生計・生存戦略を、人類生態学の理論と方法論を用いながら包括的に明らかにした。 【研究内容】サブ島S村とライジュア島R村から一行政区ずつを選び、居住するそれぞれ39世帯と57世帯を対象とし、家族構成・移住に関する対面式聞き取り調査を行った。またS村とR村で18世帯ずつを抽出し、食習慣・経済活動・社会活動に関する詳細な調査を行った。両村とも乳幼児死亡率がここ30年で低下し、また、R村では合計特殊出生率が低下していた。主要なエネルギー源は援助米や購入米であり、ヤシ糖や豆類などの自家栽培穀物や家畜などがこれを補っていた。人口増加により、島内で生産する食料エネルギーでは十分でなく、島外の米によってそれが補われていた。サブ島S村における農業は、自家消費用よりもむしろ家畜を増やす目的が強まっていた。人口増加と市場経済化の影響により、自分たちを取り巻く生態系では現在の人口を維持できなくなっていた。一方、都市とのつながりや外部からの援助は不安定で、永続的なものでもない。インドネシアのいわゆる貧困地域の開発や、半乾燥地域における食料安全保障の観点からは、パルミラヤシの糖生産や在来農耕に新たな価値を付していくことが重要であることを指摘した。 【本研究の意義・重要性】半乾燥地域における食料安全保障という現実課題への対処、および経済的格差拡大の下で貧困地域とされてきた島嶼部の発展という観点から、重要な成果をもたらした。
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