研究課題/領域番号 |
15J03453
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
津田 久美子 北海道大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | グローバル化 / 再分配 / グローバル・タックス / 国際連帯税 / トービン税 / 金融取引税 / EU |
研究実績の概要 |
グローバル・タックスは、一国ではもはや制御しきれないグローバリゼーションの負の側面を抑制し、世界に偏在する富を再分配する構想として、近年ますます注目を集めている。グローバル化時代の新たな課税のあり方を検討することは急務である。そこで本研究は、グローバル・タックスの源流である「トービン税(国際金融取引税)」を取り上げる。トービン税の歴史的展開や思想的潮流を分析することで、グローバル・タックスに関する認識枠組みを構築し、新たな政策構想を提示することを研究目的とする。 研究1年目の本年度は、トービン税が提唱された1970年代以降の歴史的展開について分析した。特に注力したのは、近年の最新の展開を明らかにすることである。長らく夢物語と思われてきたトービン税は、2008年の世界金融危機をきっかけに金融取引税として国際社会で争点化し、2013年にはEUの11カ国が導入の意思を表明するに至った。なぜ、どのようにEU金融取引税へと結実したのか、その政治過程を分析することで、トービン税の新たな展開を歴史的に位置づけ、グローバル・タックスの新たな可能性や限界を究明することを試みた。分析にあたっては、公開資料の収集・精読のみならず、政策現場に関わる実務者からのヒアリングを実施した。本分析の結果は論文として公刊した(「車輪に砂」『北大法学論集』66巻6号・67巻1号)。 また、来年度の思想分析に関する資料収集および検討も実施した。これはまだ二次文献の精読を通じた予備的考察にとどまるが、来年度の研究課題の発見につながった。 その他、本年度は知見を広げるためにも各種学会・研究会へ積極的に参加し、その結果として、政策提言書の作成に参画したり、編著本への論考を寄稿する機会を得た。これらは自身の研究の発表の機会となっただけでなく、今後の共同研究も視野に入れた学際的なネットワークを構築することにもつながった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は論文公刊を通じて、1年目の研究の主目的である歴史分析を完遂することが出来た。また、2年目の研究の中心に据える思想分析の予備的考察にも着手し、来年度の研究課題を発見することができた。このように1年目の歴史分析と2年目の思想分析とを往還するようなかたちで研究を進めることができたため、これら2つの分析を総合して練り上げることになる3年目の政策構想の導出への道筋を具体的にイメージすることにもつながった。現時点における研究課題全体の進捗状況については、所属研究機関の研究会において「博士論文中間報告」として口頭発表を実施している。以上のことから、本研究課題は計画通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる来年度の研究は、当初の計画どおり、本研究課題の分析の3本柱である歴史、思想、政策のうち思想分析に注力する。具体的には、①トービン税の提唱者ジェームズ・トービンの論考のアーカイブ調査を通じてトービン税の思想的源流にアプローチすること、②規範理論の検討を中心にグローバル・タックスの理論的枠組みを構築すること、に取り組んでいく。これらの分析結果を国内外の学会で発表する、あるいは学術誌へ投稿することを目指す。また本年度構築した学際的なネットワークを通じて、積極的なアウトリーチ活動の実施や共同研究の機会を模索していきたい。
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