研究課題/領域番号 |
15J03453
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
津田 久美子 北海道大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2019-03-31
|
キーワード | グローバル化 / グローバル・タックス / 国際連帯税 / 金融取引税 / EU / 国際課税 / グローバル・ガバナンス |
研究実績の概要 |
研究2年目の本年度は、主にトービン税をめぐる思想的潮流の解明と考察に取り組んだ。このうち最も注力したのは、トービン税の考案者である故ジェームズ・トービン教授のアーカイブ史料の入手とその分析である。そのためにまず、氏の生前の史料が所蔵されているイエール大学アーカイブ図書館へ赴き、トービン税とラベルの付く膨大な史料をすべて複写し持ち帰った。帰国後には、同史料を整理したうえで、前年度すでに考察を済ませていたトービン税の歴史的な政治過程に同史料から見出される思想的要素を時系列で紐づけるかたちで分析を行った。この分析の結果、考案者トービンの思想はもとより、トービンの書簡から誰とどのような議論を深めていたのかが明らかとなったことで、いわば「ポスト・トービン」の思想的系譜を整理することができた。 このほかに、本年度は2つの研究を実施した。第一に、前年度におおむね完了させていたトービン税の歴史的な政治過程の分析結果を、特に欧州統合の文脈に照らして改めて考察を深めた。これは、来年度に実施するトービン税の政策分析でEUの事例を取り上げることから、歴史考察においても欧州における含意を深めておく必要があったことによる。この論考は日本国際政治学会2017年度研究大会にて報告した。第二に、来年度に実施するトービン税の近年の政策過程分析の予備的考察として、近年のEUにおける政策論議の展開とそれ以前の欧州におけるトービン税の議論とを比較検討するための分析枠組みの構築を試みた。またこの一環として、同税をめぐる国家間交渉の実情に詳しい政策当事者からのヒアリングを実施したり公的機関の公開資料を入手したことで、来年度の政策分析に必須となる基礎作業を進めた。 以上の分析結果は論文にドラフトしたほか、成果の一部は前述の学会報告のほか各研究会・シンポジウム等で報告を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は2年目の研究の主目的である思想分析をおおむね完遂することができた。本研究結果を論文として公刊するには至らなかったものの、この研究成果の一部は上述の学会報告に反映されている。また本年度は、来年度の研究の中心に据える政策分析の予備的作業も実施することができた。この作業のうち政策当事者からのヒアリングについては、主に欧州における政権交代を理由とする先方の都合でスケジュール調整が難航したことから、一部作業は翌年度に繰越するかたちとなった。ただしその繰越をしたからこそ、もっとも重要な当事者にコンタクトすることが果たされ、当初想定していた以上の有益な資料収集を実現することができた。以上のことから、本研究課題は計画通り順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
3年目となる来年度の研究は、当初の計画どおり、本研究課題の3本柱であるトービン税の歴史、思想、政策のうち最後の政策分析に取り組む。具体的には、①2009年から2011年までのEUにおける金融取引税の政策検討過程に対し、政策決定の各要因を究明し、②EU金融取引税の政策検討において見出される新しい展開を歴史的・思想的に位置づけ、グローバル・タックスに対する従来の理論的枠組みの再検討を行う。①については、本年度に続き欧州の政策当事者からのヒアリングを重ねエビデンスを固める。②の「新しい展開」については、これまでの研究を通じて、EU金融取引税の具体化を経てグローバル・タックスには新たに「正統性/正統化」問題が浮上しており、これが政策検討の方向性を大きく左右する要因となっているという仮説を立てている。したがってこの研究については、グローバル・タックスの正統性/正統化問題を検討するための理論的枠組みを構築することが中心的な目的となる。そして来年度は、研究最終年度の集大成として、これまでの研究成果を博士論文として書き上げ公刊することを目指す。
|