研究課題/領域番号 |
15J03484
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
松村 洋子 慶應義塾大学, 商学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 交尾器 / バイオメカニクス / 共進化 / 共多様化 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
雌雄交尾器に見られる著しい共多様化を促した背景の解明を目指し,雌雄交尾器の物理的相互作用のメカニクスに取り組んでいる.本年度は,ペニス挿入に焦点をあて,雌雄交尾器の定量が容易な体長に匹敵するほど長い生殖器をもつカメノコハムシ類からCassida rubiginosaとCassida vibexをメインの材料として,以下の成果を得た. 交尾時に接触する雌雄の構造を精査したところ,メスの構造はスパイラルを描き,かつスパイラルの逆転が確認された.オスに比べ種間変異が乏しいと考えられていたが,種間でスパイラルの曲率・数やスパイラルの逆転の数が著しく変異し,種内変異も著しいことが判明した.オスは種内変異は乏しいが,種間では顕著な違いがみられた一方で共通した基本構造として,ペニスを取り巻きペニスの縦軸方法に走る筋肉を確認した.構造理解から,縦筋肉の収縮がペニスの押し出し(メスへの挿入)をもたらしている可能性が考えられた.そこで,交尾中のペアと交尾中ではないオスを瞬間固定して,ペニスの状態を視覚化ならびに計測した.その結果,交尾中の個体ではペニスを取り巻く縦筋肉が通常時より短くなっており,その短縮分は挿入長に相当した.これらは,複雑な形状をとるメスへのペニスの挿入がペニスを取り巻く縦筋肉の収縮のみで引き起こされることを支持する.さらに,物質組成の推定ならびに,新たに構築した実験系を用いた交尾器の硬さ測定も行った.その結果,ペニスの先端にある物質の局在が示唆され,かつペニスには硬さに勾配(基部が硬く,先端が柔らかい)があることを発見した. 数学者の協力を得て,以上の成果を基に数学的に雌雄の構造を記述し,ペニスを基部から押すというシンプルなシミュレーションを行った.メスの変異を特徴づけるスパイラルの曲率とスパイラルの逆転の存在,ペニスの硬さといった要素がペニスの挿入に影響することが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
局所的には,進行の遅れや予定外の進展があるが,全体的には概ね順調に進行している.遅れた部分の要因として,分野を超えて多くの研究者からの協力や彼らとの議論を通して進めているため,研究者間の足並みが揃わない時があったことがあげられる.しかし,初年度に予定した挿入プロセスに関しては,既に出版済み・投稿中・数日中にも投稿の段階であり最終的には遅れは取り戻した.想定外の発展には,予定になかった工学者との議論から派生的なプロジェクトもスタートした.加えて2年目の予定であった射精プロセスに関しても既にデータがある程度揃い,執筆を進めている.これも一部揃っていないデータは協力者の協力が不可欠な部分であり,共同研究者にいかに協力いただくかが今後の課題と言える.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,射精プロセスに焦点をあて,実験的にそのメカニズムを検証する.今年度の成果を基に,当初の予定以外にも神経生理学的な実験を行う必要があると考えている.既に神経生理学者との議論は進めているが,彼らの協力なくして実験の成功は極めて難しい.今年度の経験から,いかに協力者の信頼を得て彼らが協力を惜しまないような研究者になれるかが成功の鍵を握ると考える.次年度は,協力者との議論の場をさらに増やし,不測の事態にも速やかに対応できる体制を整備する予定である.次年度も新たな技術を身に着けながらの実験になり,さらに今年度の成果発表として国際学会も複数予定をしており,体調管理と先を見据えたスケジュールについて,現在検討中である.
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