研究課題/領域番号 |
15J03509
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
川島 朋也 神戸大学, 国際文化学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 注意 / 認知 |
研究実績の概要 |
本研究課題では心理学実験の手法を用い,脳波を計測することで注意制御の背景メカニズムを解明することを目指す。ヒトの注意は環境中の目立つ刺激によってボトムアップに引きつけられることもあれば,意図によってトップダウンに誘導されることもある。両者の注意定位は独立して検証されているため,統合した検討が必要である。初年度である平成27年度は2つの研究を行った。 1つ目の研究では,ワーキングメモリに保持すべき刺激(記憶項目)と視覚探索課題の標的刺激が一致する確率を実験参加者に教示し,そのときの脳波を計測することで事前知識が注意過程とワーキングメモリの保持過程に与える影響を検証した。記憶項目に対する注意とその保持の負荷の指標としてP3とCDA成分を用いた。その結果,確率が高いと視覚探索課題で標的刺激の検出が速くなり,P3成分も大きくなったが,CDAは確率によって変化しなかった。よって,確率の事前知識によってヒトは記憶項目への注意配分を増大させることで視覚探索課題での記憶項目の利用を促進させるが,その保持の負荷は一定に保つことが示された。これらの研究成果は査読付き国際専門誌「NeuroReport」に掲載された。 2つ目の研究では,妨害刺激の顕著性と課題関連性が同時に操作された妨害刺激への注意の捕捉を検証した。先行研究は顕著性によらず課題関連性が注意過程に影響することを示していたが,顕著性の操作が十分ではない可能性があったため,本研究は正弦波グレーティング刺激のコントラストによって顕著性を定量的に操作し,再検証した。その結果,課題関連性の注意過程への影響は顕著性が低いときに認められ,顕著性が高いときは課題関連性の影響は弱かった。よって,特にボトムアップ信号が弱いときにトップダウンの処理が優位になる可能性が示唆された。これらの研究成果は注意と認知研究会などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は,ワーキングメモリに保持する情報の処理とその後の刺激選択との関係性を示した成果を国際雑誌で発表した。さらに,刺激の顕著性と内的な構えによる注意配分に着目した研究では,パラメータを調整した心理学実験により刺激の顕著性が不十分な場合にトップダウン処理の影響がより強くみられるという知見を得つつある。そのため「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の心理学実験により,刺激の顕著性が弱いときにトップダウンの処理が優位になる可能性が示唆された。平成28年度は,この知見をもとに実験パラダイムの吟味を行い,さらなる心理学実験や脳機能計測によって視覚的注意の制御機構の解明を進展させる。
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