研究実績の概要 |
ヒトの認知機能である視覚的注意は,複雑な視覚環境の中から必要な情報を選択し,不要な情報を排除する上で重要な役割を果たしている。平成28年度は,ワーキングメモリに保持された情報と視覚的注意の制御の関連性を検討した。主に下記の2点について研究成果を上げることができた。 1つ目の研究では,ワーキングメモリに保持された視覚的な情報と言語的な情報が注意を誘導する効果を直接比較した。実験参加者は視覚的(e.g., 赤色の四角形)または言語的な刺激(e.g., 「赤」という単語)をワーキングメモリに保持しながら視覚探索課題を行うことが求められた。この視覚探索課題では,保持した刺激の色情報と標的刺激の色が同じである一致試行の確率を操作し(20%, 50%, 80%),実験参加者に事前に教示した。結果,80%の確率条件でもっとも注意捕捉の効果が大きく,かつその効果は視覚的な刺激と言語的な刺激の間で差がなかった。これらの結果から,ワーキングメモリによる注意の誘導の背景には領域一般的な処理が関与している可能性が示唆された。以上の研究成果は査読付き専門誌「Japanese Psychological Research」に掲載された。 2つ目の研究では,ワーキングメモリに保持された課題非関連な情報が注意を誘導する効果を検証した。288試行からなる視覚探索課題にはあらかじめ妨害刺激の色が手がかり呈示される無視試行と,無情報の中立試行の2条件が設けられた。手がかり効果の時間的な変化を見るために,72試行からなる4ブロックに分けて分析を行った。結果,無視試行の反応時間が中立試行の反応時間よりも早くなる利得は課題負荷が高く,かつブロック3においてのみ認められた。これらの結果から,学習の効果は課題の負荷が一定以上高い場合により大きくなることが示された。以上の研究成果は日本ワーキングメモリ学会などで発表した。
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