ヒトの認知機能である視覚的注意は,複雑な視覚環境の中から必要な情報を選択し,不要な情報を排除する上で重要な役割を果たしている。視覚探索における妨害刺激の抑制について,平成29年度は主に下記の2点について成果を上げることができた。 1つ目の研究では,特徴に基づいた抑制と位置に基づいた抑制の効果を直接比較した。これらの抑制の効果は異なったパラダイムで検証されており,メカニズムの処理過程に違いがあるのか否かは明らかではなかった。そこで,無視色手がかりと無視位置手がかりを用い,プレースホルダの呈示から視覚探索課題までのSOAを操作することで,両手がかりの効果を直接比較した。実験の結果,無視色手がかりと無視位置手がかりの両方において,プレースホルダの呈示時間が長い方が手がかり効果は大きかった。さらに,反応時間の変化に手がかり間の違いは認められなかった。この結果は,色と位置の手がかりの利用に差はないことを示唆する。以上の研究成果は日本心理学会などで発表した。 2つ目の研究では,視覚探索における特徴に基づいた注意の促進と抑制の効果を比較した。注意の抑制は機能する時間が遅いことが指摘されてきているものの,注意の促進との機能の違いについては十分に明らかではなかった。そこで,標的刺激の色を示す注目手がかりと,妨害刺激の色を示す無視手がかりを用いることで,これらの手がかりを用いた視覚探索の処理を検討した。実験の結果,無視手がかりを用いた探索は,探索項目のオンセットから十分な時間が経過した場合において,注目手がかりを用いた探索よりも非効率だった。これらの結果は,注目手がかりと無視手がかりは視覚探索において異なった処理過程を持つことを示唆する。以上の研究成果は注意と認知研究会などで発表した。なお,現在,これらの研究成果を国際的専門誌に投稿し,査読中である。
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