研究課題/領域番号 |
15J03513
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研究機関 | 国立研究開発法人 森林総合研究所 |
研究代表者 |
楠本 倫久 国立研究開発法人 森林総合研究所, 森林資源化学研究領域, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 球果 / テルペン / 酸化 / 自己防御 |
研究実績の概要 |
針葉樹の球果は特徴的なテルペン類を多く含み、これらは自己防御に重要な役割を果たしていると推察される。本研究は、球果に含まれるテルペン類の化学的防御における役割を明らかにすることを目的としたものである。 6月から8カ月間に渡りスギの同一系統5個体から定期的に健全な球果を採集し、各種有機溶媒を用いて低極性から高極性までの抽出物を得た。テルペン類を主とするベンゼン抽出物は中性部と酸性部に分画し、酸性部はメチル化した後にGC分析を行った。生物試験には、スギ球果を加害するチャバネアオカメムシの幼虫を用いた。 抽出物の季節変化を調べた結果、ベンゼン抽出物量は徐々に増加し、未成熟の6月と完全に成熟した1月を比較すると約1.6倍にまで増加した。特に、球果の裂開に伴い11月以降に特徴的なテルペン類が顕著に増加した。これは、球果の内部が大気中に暴露されることによる影響もしくは組織が木化する際の酵素等による影響が推察された。中性部では、chamaecydin等のクリプトキノンメチド類合成に関与する前駆体の増減が確認され、過去に報告のあるchamaecydin類の自動酸化による生成が球果中で進行している可能性が示された。また、酸性部の大半を占める樹脂酸成分では、裂開し球果中の含水率が減少した後に、一部のラブダン型ジテルペンの組成が大きく変化するという大変興味深い現象が確認された。当該年度の結果から、球果中のテルペン類の酸化機構を究明する上で着目すべき数種の成分を明らかにすることができた。 スギ球果の代表的な加害虫であるチャバネアオカメムシに対する生物活性試験においては、逐次抽出物間に優位な差は認められなかったものの、球果の主な加害時期に中性部の収率が増加することや活動期以降に一部のテルペン類の組成が変化することなど、カメムシの活動期と成分組成の変化を対比させる上で基礎となるデータを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、針葉樹の球果に多量に含まれるテルペン類について、その化学的防御における役割を構成成分の自動酸化に着目して究明するものである。研究内容は、1)球果に含まれるテルペン類の分析と活性評価、2)テルペン類の単離・同定と酸化経路の考察、3)自動酸化に着目した生物活性発現機構の解明の3点に大別することができる。初年度はスギ在来品種であるアジガサワスギの球果を主な対象とし、上記1)に関わる内容について、①成熟に伴う球果成分の変化、②樹脂成分の詳細な定性分析、③球果加害虫に対する抽出物の活性評価の3点を中心に実験を進めた。 上記①については、胚が未完成である6月から裂開し種子を散布した後の翌年1月まで継続して球果を採集し、テルペン類を含む抽出物全体の季節変化を把握することができた。上記②については、樹脂成分を中性部と酸性部に分画する際に塩基性水溶液が及ぼすの影響、GC分析に供する際の誘導体化試薬の選定等について検討した。上記③については、チャバネアオカメムシの継代飼育を行うことで生態的特徴を把握すると共に、数種類の生物活性試験方法による再現性の確認および農薬を指標としたポジティブコントロールの選定を検討した。 これらの結果から、次年度以降に上記2)、3)を遂行する上で必須となる、再現性のある分析手法および生物活性試験方法を確立することができた。よって、実験手法の確立や基礎的知見の習得に関しては、当初の計画通り順調に進展したと考える。また、スギ球果の成熟に伴う詳細な成分変化を検討した結果、成熟過程において一部の化合物群(アビエタン型、ラブダン型)が顕著に増減するという興味深い結果を得ることができた。過去に同様の報告は無く、上記2)、3)を継続する上で特に着目すべき化合物群を確認できたことは、期待以上の成果が得られたものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、広義のヒノキ科およびマツ科の球果中に多量に含まれるテルペン類について、その科学的防御における役割を究明するものである。初年度は、広義のヒノキ科の内からスギを主な対象樹種として継続的な球果採集を行い成分組成の変化を明らかにした。一方で、マツ科については、昨年度は研究対象として検討していた多くのトウヒ属の樹種(ドイツトウヒ、トドマツ、アカエゾマツ等)が凶作年であったことから継続的な球果採集が困難であり、予備実験として採集したトドマツおよびドイツトウヒ球果に含まれるテルペン類について定性分析を行うに留まった。このような状況を踏まえ、トウヒ属の対象樹種については、本年6月までに全国的な球果の着果状況を把握し、今年度の研究対象とすべきか否かの判断を行う。安定した着果が確認できた場合には、スギ球果の場合と同様に継続的な球果の採集を行い、テルペン類の化学生態学的意義について検討する。一方で、国内のトウヒ属において球果の着果が認められなかった場合は、スウェーデン王立工科大学の研究協力者と相談のもと北欧地域でのドイツトウヒ球果の採集を行い、最終年度まで含めた研究計画を再検討する。また並行して、広義のヒノキ科の中から更なる対象樹種(ヒノキ、ヒバ、アスナロ等)を策定し、日本固有のヒノキ科樹種を広く網羅できるような球果に含まれるテルペン類に関するデータの構築を試みる。
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