研究課題/領域番号 |
15J03517
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中嶋 龍 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | オピオイド / ナルフラフィン / プロペラン / 鎮痛薬 |
研究実績の概要 |
オピオイド受容体には、三つのタイプが存在し、それぞれμ、δ、κと名付けられている。モルヒネに代表されるオピオイド系鎮痛薬では、その薬物依存性が問題視されており、それはμ受容体に起因し、δ、κ受容体には、依存性がないと考えられている。そのため、δ、κ選択的作動薬は依存性のない鎮痛薬として有望である。以前の研究により、筆者はプロペラン型化合物の予想活性立体配座を固定した五環性化合物が高いκ選択性を示すことを見出した。そこで、今年度はその五環性化合物を基本骨格とし、さらなる誘導体合成を行い、オピオイドκ受容体に対する活性向上を試みた。κ選択的作動薬の分子デザインをする際に、既存薬であるκ選択的作動薬ナルフラフィンの予想活性立体配座を参考にした。すなわち、ナルフラフィンはそのアミド側鎖がC環の上方に配向した時に、κ受容体に対して高い親和性を示すと考えられており、五環性化合物も同様にC環の上方にアミド側鎖を導入することで、κ受容体に強く結合すると仮説を立てた。以上の仮説を検証するために、五環性アミド誘導体を合成した。得られたアミド誘導体のオピオイド受容体結合試験を行った結果、アミド側鎖が下方に配向したアミド誘導体では全体的にκ選択性が低下し、上方にアミド側鎖が配向した誘導体は、既存のナルフラフィンよりも高いκ選択性を示した。これは上方に配向したアミド側鎖がκ受容体選択性に重要であるという仮説を支持している。また、ナルフラフィンは、鎮静作用と鎮痛作用が分離できなかったため、鎮痛薬としての臨床適用はできなかったので、今回得られた五環性アミド誘導体の鎮静作用と鎮痛作用の分離比を評価した。その結果、ナルフラフィンと比較して2.4倍の改善が見られた。以上の結果により、依存性のない鎮痛薬の有望なリード化合物として期待できる五環性アミド誘導体の創出を達成できたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、κ選択性の向上を期待し、プロペラン型五環性誘導体の上方にアミド側鎖を導入した誘導体を合成する予定であったが、合成の最終段階の脱メチル化で、目的物がほとんど得られないもしくは全く得られないという問題が発生したが、種々の反応条件検討、誘導体合成により、アミド側鎖が脱メチル化の反応条件で、分解してしまうことを見出した。通常アミド側鎖は容易に分解しないが、五環性アミド誘導体はそのリジッドな環構造によりねじれたアミド構造を有しており、分解しやすくなっていることを見出した。最終的に、合成ルートを変更し、脱メチル化を合成初期段階で行うことで、目的物である五環性アミド誘導体の合成を達成した。また、得られたアミド誘導体は、期待通りアミド側だが下方に配向したものはκ選択性が低下し、上方に配向したものは高いκ選択性を示し、これまでの仮説を支持する結果が得られた。さらに上方に配向したアミド誘導体のひとつは、既存薬であるナルフラフィンよりも約7倍高いκ選択性を示し、依存性のない鎮痛薬として非常に有望であることが示唆された。そこで、ナルフラフィンの問題点であった鎮痛作用と鎮静作用の分離比を評価した結果、五環性アミド誘導体は、ナルフラフィンよりもその分離比が改善されており、臨床適用可能な鎮痛薬として有望であることが示唆された。また種々の五環性アミド誘導体を評価して得られた知見は、今後、オピオイドκ受容体選択的作動薬の創出に非常に有用な情報をもたらしたと考えられ、当該分野のさらなる発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、既にアミド誘導体において、高いκ選択性、親和性、そして鎮痛作用と鎮静作用の分離は達成できたので、次年度はアミド側鎖部位を保存しつつ、他の部位の構造変換を行う。具体的には、アミド誘導体の17位窒素置換基が現在、シクロプロピルメチル基のみオピオイド受容体活性の検討を行っているが、この置換基をより単純なメチル基や他の置換基に変換し、その活性を評価することでκ受容体に対して最適な17位窒素置換基を決定する。また、今年度合成したアミド誘導体は、市販薬のナルフラフィンよりも鎮静作用と鎮痛作用との分離が改善できたが、その鎮痛活性はナルフラフィンよりもかなり弱い値を示した。この原因を、そのアミド誘導体の低い血液脳関門透過性にあると考え、血液脳関門透過性の良い化合物へと変換すればさらなる鎮痛活性の向上が期待できると考えた。そこで、現在メディシナルケミストリー分野で世界トップレベルの研究を行い、さらに血液脳関門透過性化合物の理論的分子デザインを得意とするイリノイ大学シカゴ校のKozikowski研にPDの身分でポスドク留学し、その理論的分子デザインを学ぶことで、オピオイドκ受容体作動薬の血液脳関門透過性を向上させ、さらなる本研究課題の発展を試みる。
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