研究実績の概要 |
脊髄後角は感覚情報の単なる通り道ではなく, 感覚情報は複雑な脊髄回路で様々な修飾を受けた後に上位中枢に伝達される。近年脳におけるグリア細胞が神経細胞と相互に作用することで神経活動の調整を行うことが明らかにされており, 脊髄においてもそのような制御機構の存在が予想される。そこで本研究では痛覚伝達時の脊髄アストロサイト活動の解明ならびに脊髄アストロサイトによる痛覚調整メカニズムの解明を目指した。本年度は2光子励起顕微鏡を用いたin vivo脊髄Ca2+イメージング技術の確立ならびに末梢刺激時における脊髄後角アストロサイトCa2+シグナルの解析を行った。専用の脊髄固定器具を開発し, 椎弓除去手術を施したマウスに固定器具を装着することで拍動による画像の乱れを最小限に抑えたイメージング画像を得ることに成功した。現在では最大2週間, 経時的に同一箇所をイメージングすることが可能である。今後, 慢性疼痛時の脊髄後角アストロサイトを経時的に観察する際にもこの技術を応用する。アストロサイト特異的なプロモーターgfaABC1D promoterとアデノ随伴ウイルスを利用することで脊髄後角のアストロサイト特異的にGCaMP6mを発現させたマウスを作製し, 末梢刺激時におけるアストロサイトのCa2+シグナルを観察した。その結果, 侵害刺激をマウスの後肢へ与えた際に脊髄後角アストロサイトがCa2+応答を示すことを発見した。このCa2+応答に重要な因子を探索するためIP3R2欠損マウスを用いて同様の実験を行ったところ, 侵害刺激に誘発されるアストロサイトCa2+応答が抑制されることを明らかにした。この知見は固定サンプルの観察のような静止画情報からでは得ることができなかったものであり, 生理的な痛覚伝達時における脊髄後角アストロサイトがIP3R2を介して何らかの痛覚調整を行っている可能性を示唆する。
|