研究実績の概要 |
本研究では,基板表面に細胞の接着領域をパターニングすることにより神経細胞の配置と軸索の伸長方向を制御し,脳の機能を発現する最小パターン神経細胞ネットワークを構築することを目的としている.神経細胞の活動計測の一つとして既存の集積化電極アレイ(MEA)を用いることを検討していたが,MEAでの測定には神経細胞の電極への被覆状況によっては測定信号が微弱になってしまう問題があった.この問題を,神経細胞の上から抵抗性シートを用いて被覆することで,間接的に神経細胞-電極間のインピーダンスを上げて信号を増強させる新しい手法を考案し解決した(Appl. Phys. Lett., 108, 023701 (2016).).抵抗性シートとして物質透過性を有し栄養素や酸素などを供給できるグリア細胞をシート状に形成して用いることで,神経細胞に非侵襲でありながらノイズに埋もれない強靱な信号を高効率に取得できる手法を確立した.グリア細胞シートのインピーダンスを計測し,その値を用いた等価回路シミュレーションを行ったところ,さらにインピーダンスが高い細胞シートを使用することでさらなる信号増強が期待できることが分かった.この手法は神経細胞の上から被覆するという簡便な方法であり,また電極基板を加工して信号増強させるなどの別手法と組み合わせることができる.これらのMEAを用いた測定が脳機能の評価系として発展し,脳研究に貢献していくと期待される.以上のように,今年度は神経活動を高効率で測定できる実験系の構築まで進めることができた.来年度は形成した神経回路の測定へと展開していく予定である.
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